シークレットストーリー
歌が聴こえる。
何を歌っているのだろう。
私には分からない言葉。知らない言語のような響き。
けれど、不思議と聞き覚えのあるような歌。
その声の主を探し、霧の中を歩いていた私は、
木々のそばに建つ小屋を見付けた。
この小屋には見覚えがある。
そう、いつも遊んでいたあの場所――――――
声が聞こえた気がして、私は振り返った。
でも、そこには誰もいない。
視界に映るのは、頭上から垂れる自分の前髪。
―― 『黒い』髪。
それは、私の髪の色とは違う。
「…………私は、誰?」
―― 瞬間、目が覚めた。
刺すような痛みが、吐息と共に喉を通り抜けていく。
呼吸を整えながら、汗で額に張り付く前髪を掴んだ。
「……大丈夫。ちゃんと、『白い』」
自身の身体に異常が無い事を確認し、私は立ち上がろうとする。
そこで、ふと気づく。自分の身体が外にあることに。
私が眠りに就いたのは、廃墟となったビルのある一室。
眠気に耐えながら壊れた椅子を並べ、そこで横になったはず。
なのに、私の頭上では太陽が煌々と輝いている。
「また……?」
とある研究施設で製造された生体兵器。
姉妹とも呼称されたその兵器群で、末妹にあたる私は、
生まれた施設を後にしてから、地上での旅を続けていた。
目指すはお姉さま ―― 私達のオリジナルである長女 ―― が、
生前に行きたがっていた思い出の場所。
彼女の記憶を引き継いだ私が、代わりに辿り着くと約束したから。
しかしそれはどうやら海の先で。
遥か水平線の向こうにあるらしく。
行く手を阻まれた私は、大海を越える術を探した。
辺りの廃墟を巡る日々。
成果を得られないまま幾日が過ぎただろうか。
そんな中で、私は異変に気付いた。
例えば、眠る前に壁に立てかけた槍の位置が動いている。
例えば、日々の記録を残した紙に覚えのない記述がある。
はじめは気のせいとも思える些細なものだった。
でも今はこうして、眠る前とは違う場所で目覚める事がある。
時には、血の香りで目を覚ます日さえ。
『症状』、と呼ぶのが正しいかもしれない。
兵器である私にも適した言葉かは解らないが、
それは人間で言う、『夢遊病』によく似ていた。
そう、私が眠っている間。
私の知らない所で、私の身体は活動を行っている。
「もしこれが、眠りの外側にまで及んだら・・・・・・」
私は恐れていた、自分の身体が自分の物でなくなる日を。
もしそうなってしまえば、
私はお姉さまの思い出の場所には辿り着けない。
それは、駄目。
だから私は、自分の身に起きた異変について知る為に、
あの研究施設へと戻る事にした。
仮に設備や薬品が確保できたとしても、
兵器である私に人間と同じ治療法が通用するかは分からない。
それにこの地上を旅する中、多くの文字を読んできた。
残された人類の知識に触れてきた。
図書館の本、捨てられた紙片、主のない日記。
―― けれど、どこにも私達に関する記録はなかった。
この身体について調べるのならば、きっと。
私たち姉妹の情報が残されていたあの施設に引き返す他ない。
―――― ようやくここまで歩いてきたのに。
そんな考えが頭を過る。
お姉さまの思い出の場所を目指して、長い間歩いてきた。
研究施設まで引き返せば、また遠ざかってしまう。
海を越える手段を見付け、その場所に到着できるまで、
一体、どれだけの時間がかかってしまうのだろうか。
息苦しいような感覚に襲われながら、それでも私は歩み出す。
あの土地へと辿り着く為に必要な事なのだと、
空に文字を書くようにして。
「停電……なのかな」
海の中。
動作を停止し、軌道上に留まる昇降機。
その内側で、私はひとり呟いた。
お姉さまの記憶に強く残っていた、思い出の場所。
そこに行く為、私は研究施設を出てひとり旅立った。
その旅の途中、私に生じた夢遊病に似た異変。
何物かは判らない、けれどいつか。
自分の体が自分の物でなくなってしまうような気がして。05
私はその症状について手がかりを得る為に、
歩いてきた道を引き返し、帰ってきた。
自身が生み出されたこの地へと。
けれど……施設と地上を繋ぐ昇降機の動作停止。
それによって私は立ち往生していた。
乗り込んできた扉に手をかけ、力を加える。
それが開いた先は、昇降機が走行する為の空間。
本の情報ではシャフトと呼ぶらしい。
扉の隙間から顔を出し、暗闇へ延びるそれを見下ろした。
海を望むガラス窓の付近は開けており、
微かに届く太陽光に、海を通して青く照らされている。
これなら、降りられる。
私は昇降機から飛び出すと、ガラス面に手を着いた。
そのまま、表面を滑り降下していく。
立ち止まっている時間はない。
ここで、私の症状について調べなければ。
シャフトの最下部へ着地した私は、服の汚れを払って立ち上がる。
着いた。ここが施設の入り口。
やはり自動では開かない扉を手で開き、内部へ足を踏み入れた。
照明の消えた通路は暗闇と静寂に包まれており、
残響する足音がやけに大きく聞こえる。
「……まずは、配電設備のある部屋に行こう」
足音を掻き消すように、私は口にした。
―― 目標は、そう遠くない地点で見付かった。
停電の原因は、発電設備の劣化だろうか。
電力不足の表示を見るに、
昇降機を動かすだけの電力がなかった、という事なのだろう。
私は配電盤を操作し、資料を探す部屋にのみ電気を通す。
目論見が上手く運んだのか照明は機能し、
部屋で資料の捜索を始めてしばらく停電の気配もない。
だけど。
「…………」
目当ての情報については、中々見付けられずにいた。
私にコンピューターが扱えたなら、効率も違っただろう。
けれど私の記憶にその情報はない。
配電盤だって、表面に刻まれた説明なしには操作できなかった。
残置された紙の資料から情報を探す。
数枚の束になっているもの。裁断され、紙屑になっているもの。
一先ずは、それらを手元に拾い集めた。
けれど、この施設が主に機械を用いている以上、
求める文献が印刷されているとも限らない。
……本当になかったら、どうしよう。
まさにそう考えながら、裁断された紙を並べていた時。
他の資料にはない、文字の欠けた文章を見付けた。
私は急いでそれを繋ぎ合わせ、目を通す。
『……■■■■の働きと、休眠を伴う調整及び記憶処理により、
*■■した6番は制御を一部取り戻す事に成功した』
セキュリティによる処理で文字が消された文。
何か、重要な情報があるかもしれない。
『この事例により、■■の原理は未だ不明であるが、
*長期の活動が発症に繋がる可能性が示唆された』
『量産された彼女達も、記憶が蓄積されれば個体差が生じる。
*他の異変の例を見ても、それが顕著な個体の危険性は否めない」
欠けた部分が示す内容は解らない。
けれど制御不能という点は……私の症状と、同じ。
そして、資料の最後にはこう書かれていた。
『現時点では、印象強い記憶を除去する事が対処となるだろう』
発症すると、制御を失うという何か。
それが私の夢遊病に似た症状と、同一の物かは不明だ。
でも、休眠を伴う調整や記憶処理を私は受けていない。
そして、私の持つ『眠気と自発的な睡眠』は、
他のお姉さまは持っていない、明確な個体差。
長期の活動が、印象の強い記憶が危険性を高めるなら。
私は今、安全と呼べる状況にはいないのだろう。
本来であれば、記憶を消されていたかもしれない。
症状の改善を望むならきっと、それが正しい。
けれど。
私たち姉妹の中で、今生きているのは私だけ。
オリジナルのお姉さまの思い出も、今は私の中にある。
だから、この記憶を手放す事はできない。
あの『思い出の場所』に、
私が代わりに辿り着くと約束したのだから。
―― 瞬間。
背後でかちり、と金具の触れるような音がした。
前方へ強引に跳躍し、槍を刺して壁面に着地する。
私が立っていた場所で何かが光を照り返した。
刃物。
呼吸の音はない、体温も感じられない。
そこに『生命』の気配はない。
だというのに。
暗闇に浮かぶ二つの輪郭。
それは私と同じ、ヒトの似姿を取っていた。
私の身に生じた、夢遊病のような異変。
それを解消する策を探す為、私は旅を中断し、
自分の生まれた研究施設へと帰って来ていた。
そして見付けた、
個体差が私たち兵器に及ぼす危険性を記した資料。
記憶の除去が異変の対処になるという、その文を読んでいた時。
私は背後から何者かの襲撃を受けた。
躱す事こそできたが、咄嗟に動かした関節が悲鳴を上げる。
舞い上がった書類と痛みの中、私は襲撃者の方を睨んだ。
―― 無機質な歩みが近付いて来る。
反響する、鈍く重い足音。
その手に握られた得物が揺れた。
闇に浮かぶ二つの人影。
彼女らの武装は大型の刀剣だろうか。
とすれば、重量を考えると弾き続けるのは難しい。
私の武器が槍である以上、
壁際に立つこちら側へ、接近を許すのは危険だ。
けれど、敵に対する不確定情報の多さが、
攻勢に出ようとする私の足を踏み留まらせた。
なぜ襲ってくるのか。
彼女たちの目的も出自も判らない。
そしてその正体も。
私がこの施設を出た時。
もう、私の他に動く生物の気配はなかったはず。
外から来たのか、それとも今まで潜んでいたのか。
呼吸も体温もない影は、
確かにそこにいて、私を見詰めていた。
揺れる切っ先が首をもたげる。
まるで、敵意を表す蛇のように。
―― 意を決し、私は壁を蹴った。
生態が分からなくとも、人の形をしているのなら。
その進化の証、重心を取る脚をまず壊す。
私はより近い人影の脚へ、遠心力を乗せ槍を叩きつけた。
瞬間、彼女は後ろへ飛び退く。
―― 躲された。でも、それも想定の内。
抉られ、舞い上がるタイルと建材。
その瓦礫と埃へ踏み込み、敵の背後に回る。
「……はっ!」
時計回りに身体を翻し、その勢いのまま槍を払った。
間隙は作らない。
狙うは同じく足元。
跳んだその足が、床に触れる瞬間を薙ぐ。
掌に伝わる感触。
―― 当たった。
床の上を切り落とした足部が滑り、
赤錆色の液体が白いタイルに直線を描く。
……何か、違和感があった。
直線を目で追った先、主を失った足の断面。
そこには、金属の軸とバイプがあった。
機械。
そう理解した瞬間、背後で風を切る音がする。
「く……っ」
後ろ手に槍を構え、なんとか攻撃を受け止めた。
腕が痺れ、骨が軋む。
一度、距離を取らないと。
その思考を遮るように、また新たな音が耳に響く。
『―― 保有兵器の流出リスクを確認、
*防衛用限定型アンドロイドを起動します』
研究室に響き渡る警報。
重々しい扉の開く音と、機械が床に落ちる振動。
私の、兵器としての本能が危機を告げる。
防衛用限定型アンドロイド。
恐らくは、ここにいる機械と同じ物。
つまり、敵の増援が迫っている。
槍へ圧し掛かる剣をいなし、敵の側頭部に蹴りを放つ。
早くここから立ち去ろう。
私が走り出そうとした瞬間、視界に影が落ちた。
剣を構え、アンドロイドが私へ降りかかる。
足を失っているとは思えない跳躍で。
咄嗟に、槍でその軌道を逸らそうとした。
しかし。
響き渡る、大きな金属音。
想像を超える剣撃の重さに、槍が吹き飛ばされる。
死の気配。
蹴った背後の敵の方からも音がする。
どうすれば。
ここで死んだらもう、お姉さまの思い出の場所には――
必死に考えながら振り返る。
そして私は、眼を疑った。
背後にあったのは、寸断された機械の残骸。
「え……?」
部品が崩れ落ち、液体が鈍く床へ広がる。
そこに映り込むのは赤い一つの光。
私の、片目だ。
気付けば左手には剣を握っている。
それは、お姉さまの形見の剣。
怖れていた。
眠る間、無意識に身体が動く事。
それが眠りの外にまで及んでしまったら。
私の身体が、私の物でなくなってしまったら。
振り下ろされる敵の刃を右手が容易く弾き、
その懐へ滑るように潜り込む。
私の意思に関係なく、独りでに。
右手はそのまま敵の腕部を掴むと、壁へ投げ飛ばした。
強かに打ち付けられ、機械の体が歪む。
それを壁へ縫い付けるように、左手は剣を投げ、貫いた。
―― 突如、肩に重力が圧し掛かる。
まるで重い荷物を投げ渡されたかのように。
……症状は、落ち着いたのだろうか?
強張る左手を、顔の前に差し出す。
そこに赤い光は射していない。
確かめるように掌を見詰め、何度か開いては閉じた。
大丈夫、ちゃんと動かせる。
見上げれば、壁に磔にされたアンドロイドは、
未だ胸部を穿つ剣を引き抜こうと藻掻いている。
その奥の通路には、群れを為す影が浮かび上がっていた。
お姉さまから預かった剣。
思い出の場所まで持って行くつもりだった。
私は静かに、落とした槍へ手を伸ばすと―
「……ごめんなさい」
―― それを掴み、敵に背を向け駆け出した。
あれだけの数、勝機はない。
ここで死んでしまったら、全てが無意味になってしまう。
とある場所へと駆けだした私に、他の選択肢はなかった。
―― 無数の足音が、反響し、残響する。
複雑に伸びる研究施設の通路で、私は機械の群れに追われていた。
研究対象の流出を防ぐ為だという、防衛限定型アンドロイド。
私がここに戻ってきて、施設内の一部電力を復旧させたとき、
それが管理されていた区画にも影響を与えてしまったのだろう。
この施設で私が目覚めた時、彼女たちはいなかったのだから。
そう思いながら、アンドロイドの猛追から逃げる私は、
配電盤を操作した時に見た部屋を目指していた。
そこなら、この窮地を脱する手段があるかもしれない。
扉が開くと同時に、部屋へ飛び込む。
通路にあったパネルには、『格納庫』の文字。
ここだ。
近くにあった棚を二つ倒し、扉を塞ぐ。
けれど、きっと数秒の時間稼ぎにしかならない。
私は息を切らしながら、周囲の捜索を始めた。
物資を保護する布を強引にめくり、
金属製の匣を力ずくでこじ開ける。
これじゃない。違う。ここにもない。
何度かそれを繰り返し、
壁と一体になっている大きな匣に手を掛けた瞬間。
遂に棚で塞いだ扉が穿たれる音がした。
表面の剥げた金属の指が、その隙間から差し込まれる。
もう時間がない。
私は錠を槍で断ち切り、匣の内部へ踏み入った。
そこにあったのは大きな機械。
手で埃を払うと、『Si’N-02』と刻印がされている。
見付けた。
受け継いだ記憶の中にあった、大型の自動二輪車。
私たち兵器の戦闘を補助する目的で開発されていた物。
飛び乗るようにして座席に跨るが、
施設同様、この乗り物も長らく忘れられていたはず。
問題なく動作する保証はない。
その時、扉と同時に棚が吹き飛んだ。
大きく歪な穴から、機械の群れが姿を現す。
私はどうにかエンジンを起動しようと、手探りで操作を繰り返した。
「お願い、走って……・!」
突如、車体のライトが点灯した。
『生体認証成功、製造番号123を確認。ロックを解除します』
流れる電子音声。
ハンドルを握っていた手に、座席に、振動が伝わる。
スロットルを開くと、エンジンの音が唸るように轟いた。
行ける。
私はそう呟いて車体を発進させた。
向かうは、格納庫に併設された通路。
そこには、長い斜路が伸びていた。
塞がれた格納庫の扉を破ろうとしていたアンドロイド以外にも、
こちら側に回り込んでいた者が居たのだろう。
道の上には多くのアンドロイドが構えていた。
左手に槍を携え、私はその坂を突き進む。
追撃を躱し、車体で包囲を貫き、
槍で障害を退けながら、前へ前へと駆けていく。
そして、通路の終端。
眼前に扉が迫る。
強く槍を握り締め、構え直した。
瞬間的に、お姉さまの剣の事を思い出す。
お姉さまから預かった、大切な物。
だけど、もう引き返すことはできない。
―― 数度、響き渡る金属音。
爪痕の様に隙間の開いた扉。
そこからは土が零れ、光が差している。
私は大きく息を吸うと、
光に向かって車体を一気に加速させた。
―― 再び研究施設を出て、地上に辿り着いた私は、
ひび割れた道路にバイクを走らせる。
格納庫からの通路は、地上へと続いていた。
元よりこういった車両を、地上へ持ち出す為の物だったのだろう。
あのアンドロイド達は今も私を追いかけているが、
この速度ならば充分振り切れる。
「……はぁ」
深く、息を吐く。
私は疲れた体を車体に預けるようにして、思考に耽った。
思い返すのは、私の眼が、
片目だけが赤く光った時の事。
あの瞬間、剣を振るう私の腕にあったのは、
『握り慣れた』感覚だった。
あの剣はお姉さまの物。
なら、私の身体に異変を起こしているのは、
お姉さまの記憶なのだろうか?
勿論、私が兵器だから武器に慣れているだけかもしれない。
けれどもし。
この体を動かしていたのが彼女なのだとしたら。
オリジナルである彼女が、
私の身を欲しがっているのなら。
私は、それを差し出すのだろうか?
私が目指しているのは、お姉さまの思い出の場所。
お姉さま自身がその地に辿り着ける事は、
誰かが代わりに向かうよりも、ずっと良い事のはず。
そしたら、私はどうなるのだろう?
―― 何も見えない暗闇にいる、自分の姿が脳裏に浮かぶ。
―― 何も聞こえない、誰もいない場所。
―――― 私はそこでただ、息をしているだけ。
答えを、出す事はできなかった。
理由は分からない。
理屈を言い表せない。
地上に出てから、私は多くの事を知ったと思う。
色々な物の名前が分かった。
様々な事を言葉に表せるようになった。
それでも。
いや、だからなのだろうか。
この感覚を何と言えばいいのか、わからない。
風のせいか、ハンドルを握る指が震える。
私はそれを抑え込むように手に力を込め、スロットルを捻った。
両親と暮らした家。窓から見える庭。
そこにあるのは素朴な小屋と、可憐な花々。
ありふれているけれど、美しい光景。
それこそ、亡き長女が帰りたいと切に願った「思い出の場所」・・・・・・
彼女は姉の遺志を継いで、長い旅に出たわ。
ほんの少しの手掛かりをたどって、
「お姉さま」のためにその地を目指したの。
それはとても困難な旅。手がかりは少なく、頼れる者もいない。
でも・・・・・・この子はきっとやり遂げてしまうでしょうね。
それが彼女にとっていい事なのかはわからないけれど・・・・・・
だって、この子の目的は姉の願いを叶える事だけ。
それ以外何も見ていない。気付いていない。
自分の『異常』にすら・・・・・・
この旅が終わってしまったら、後には何が残されるのかしら?
ママはそれが心配なの。
E3 81 9D E3 81 AE E7 BF BC E3 81 AF E6 97 A2 E3
81 AB E7 9B AE E8 A6 9A E3 82 81 E3 81 A6 E3 81
97 E3 81 BE E3 81 A3 E3 81 9F……
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…Playing audio file: LW0123.wav
「・・・・・・私の邪魔を・・・・・・なら、誰一人・・・・・・さない・・・・・・」
Unknown access detected.
Connection aborted.
_ _月 _ _日 夢の記録
拾った日記帳に、見た夢の記録をつけはじめた。
それをしばらく続けてみて、わかったことがある。
いつでも夢に視覚が存在するわけじゃない。
それは触覚や嗅覚も同じ。
でも、音だけは常にある。
今日は歌が聞こえてきた。微かに、とても遠くから。
あれをどうやって文字で記録すればいいかわからなくて、
色々調べてみた。
人々はこういうとき『絵』の力を借りるらしい。
目の前にあるものをただ書き写すだけなら簡単だけれど、
イメージを絵にするのは・・・・・・難しい。
きっとお姉さまなら、もっと上手に描くだろうな。
半壊したビルの中を漂う古いオイルの香り。
少女は自らの手で、旅の「脚」となる、
大型自動二輪車のメンテナンスを行っていた。
少女と同じ研究所で生産されたそれには、
人工知能が搭載されていた形跡があったが、
今は何をしても反応することはない。
少女は工具を置き、手慣れた様子でエンジンをかけた。
心臓の鼓動のような音が辺りの空気を震わせる。
その中にはほんの僅かだが、高い異音が混ざっていた。
エンジン内部で異常燃焼が起こっているのだろう。
十分な物資があれば修理できるかもしれないが、
今はこうして騙し騙し動かしていくしかない。
それはあくまで、目的地へ到達するための道具。
無用な愛着を覚えたりなどはしない。
しかし少女はシートを軽くたたき、物言わぬ車体に声をかける。
「・・・・・・もう少しだけ走ってね」
オリジナルの興味の対象ははっきりしていて、植物全般に強い関心を持っている・・・・・・ここまでは所員全員が知っていること。
で、こっちが用意した立体データじゃ満足できなくなったのか、オリジナルから栽培室の見学希望の申請が来たのよね。
許可を出すかどうかで相当揉めたみたいなんだけど、ストレス数値の軽減措置として試験的にやってみるって事になったとか。
ただそうなると、セキュリティの見直しは必須。
どういう措置を取るか詰めてるところだから、決まったら追って通達するね。
ゲートの解錠に、面倒な手順が増えなきゃいいけど・・・・・・
形式 |■Q■-■4■■
仕様 |防衛限定。敵の迎撃には使用されない。
射程 |武装及び残量エネルギーに準じる。
武装 |状況に応じる。
装甲 |通常警備アンドロイドと同等。
その他|当研究所より兵器の流出を阻止する際にのみ使用される。
■ 兵器の流出が認められた際、自動的に起動する。
■ 通常の警備アンドロイドとは命令系統や思考ルーチンが異
■ なるため、取り扱いには注意が必要。
■ 防衛用限定型アンドロイドは原則2体以上でしか行動せず
■ また思考は完全に並列化されている。
■ 流出した兵器はその時点で破棄が決定されるため、持ち出
■ した者と兵器両方の処分を行う。
■ また、防衛用限定型アンドロイドは目的を達成するまで研
■ 究所には帰還しない。
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