狩人の断章

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シークレットストーリー

一章 厭世の滲み

グラスがぶつかる音。うるさい男たちの笑い声。
酒場は今日も盛況で、ざわめきに満ちていた。

酒でぼんやりする頭をどうにか支えながら、
グラスを満たす琥珀色の水を飲み干す。
その時だった。

「おい! 隻腕の女はここか!」

酒場の扉が勢いよく開き、見知った顔の男達が入って来た。

――取立人だ。

「先月の分、どう返す。次は脚を売るか?」

先ほどまであれだけ騒がしかった酒場が、
今は水を打ったように静まり返っていた。

「……すまない。今週には返すよ」

酔いのせいで呂律が回らない。
そんな私を、取立人は鼻で笑う。

「返す? 当てがあるのか? その体じゃ働きにも行けねえだろ。
王国狩りの“義肢”女さんよ」

――『王国』。
私の故郷を焼き払い、妹を殺戮用の義肢兵へと作り替えた連中。
あの子は『失敗作』と呼ばれ、奴らに殺された。

私が奴らに報復を誓い、残党を一人ずつ殺して回るようになり……
気づけば20年の歳月が流れた。
今では残党兵を名乗る者も、全くみなくなった。

誓いを果たした私にもたらされたもの。
それは充足でも幸福でもなく、深い虚無だった。

復讐という目的を失った生。実のない日々。
からっぽの私を満たすのは、この店の酒だけ。

酒を飲む金がなくなれば働き、それでも足りなくなれば借り、
ついには戦いの要であった左義手も、数日分の酒代となった。

「なんとか言ったらどうだ!」

取立人の男が私の胸ぐらをつかむ。
急に体を起こされ、
私は男の腕に飲んだばかりの酒を吐いてしまった。

「てめえ、ぶっ殺してやる!」

私の身体を投げ捨てたあと、
男は腰に差していた短い鉄の棒を抜く。

それが振り下ろされた瞬間、
鈍い痛みが全身を駆け巡った。

「かはっ……」

うずくまる私の背中に、もう一撃。

左手があれば、酔っていなければ……
こんなやつに負けるはずがない。

だが事実として、
今の私はどうしようもなく惨めで無力だった。

「やめてくれ……返……から……」

気づくと私は命乞いをしていた。

実のない日々に疲れ、酒に逃げる生活を送ってもなお、
死ぬのが怖いらしい。
そんな自分がひどく滑稽に思えた。

「そのあたりでやめておけ」

外套を着た男が店の中に入って来る。
逆光で顔は見えない。

だが、その声を聞いた瞬間、
胸が沸き立つような感覚がした。

「あぁ? てめえには関係ねえ――」

外套を着た男が一歩踏み込む。

彼は目にもとまらぬ速さで剣を抜き、
取立人の喉元に刃を突き付けた。

「だから言っただろう。 やめておけと」

取立人は恐怖で短く息をのんだあと、
負け惜しみを言いながら酒場を出ていった。

「大丈夫か?」

外套を着た男が私に手を伸ばす。

「あんたは――」

私はこの男を知っていた。
男が私を救ってくれたのは、これで二度目。
一度目は、私と妹が一夜にして孤児となった時のこと。

途方に暮れた私に彼は、
あの時も「大丈夫か?」といって、手を差し出した。

そして獲物の捌き方から大人の丸め込み方まで、
生き抜くための方法を一通り教えてくれたのだ。

「お前のことを探してたんだ」

「……どうして」

生きるには虚しすぎる。だが、死ぬには怖すぎる。
そんな私の前に、かつての師ともいえる男が現れた。

「頼みがある。話を聞いてくれるか?」

これは好機だ。
逃したらもう二度と掴めない、最後のチャンス。

「ああ……当然だ。礼をしないと」

礼をするだけじゃない。
この無為な毎日から抜け出せるかもしれないと、
少し期待したんだ。


二章 咎人の陰り

久しぶりに再会した、かつての恩人。

彼は義肢の女がいるという噂を聞きつけ、
自ら私に会いに来たらしい。

そんな彼には、
どうしても果たさなければならない目的があった。

――王国の残党兵に攫われた、最愛の人を救うこと。

傭兵の真似事なら慣れたものだ。
それに、まだ王国の連中が生き延びていたことも気になる。
私は二つ返事で、男の依頼を引き受けた。

「この方角は……」

残党兵の住処へと続く道は、
私にとって馴染みのあるものだった。

「そうだ。奴らは俺たちの故郷の町を根城にしている」

かつて、彼や妹と走り回った森。

「ここに来るのは……20年ぶりだ」

どうしても故郷の辺りにだけは近寄れなかった。
だから残党兵たちは、
私が姿を現さないあの町に身を隠したのかもしれない。

「義手の調子はどうだ?」

重くなった空気を振り払うかのように、彼は話題を変えた。

「手放す前より具合がいいよ。質屋が手入れしてくれたみたいだ」

報酬の前払いだと、
彼は質に入れた私の左義手を買い戻してくれた。

戦いの要であるそれを取り戻したおかげか、
錆びついていた感覚が徐々に戻って来る。

「それで……いつまで隠れてるつもりだ?」

茂みの奥。
敵の気配を確かに感じた場所に向かって、私は剣を振る。
今度こそ王国の残党兵を狩りつくすために。

しかし――

「キャハハハハ!」

飛び出してきたのは
私と同じように人体改造された『義肢兵』だった。

「オネえちゃんだっ! ミンナ! アツマれー!!」

それを合図に、義肢兵たちがワラワラと虫のように湧く。
どれも年若い女――少女のような姿のものもいた。

「……!」

胃液が食道を遡り、口内に嫌な味が広がった。
身体が固まる。恐怖のせいじゃない。

――彼女たちの姿は、あまりにも妹に似すぎていた。

とっさのことに足を取られ、体勢を崩す。

「キャハハハハハ タノシイヨウ キモチイイヨウ」

私の上に馬乗りになり、
剣を振り下ろそうとする義肢兵を払い除ける。

地面に転がる義肢兵の首元から、
写真を入れたロケットが外れて宙を舞うのが見えた。

彼女らも……もともと普通の暮らしをしていたはず。

「数が多すぎる! こっちだ!!」

彼に手を引かれるがまま、森の中を走っていく。

義肢兵たちの笑い声が聞こえなくなった頃、
私たちはようやく足を止めた。

「もう大丈夫だ。敵はうまく撒けた」

男が私を気遣うように肩に手を置く。

私はそのとき初めて
自分の体が激しく震えていることに気づいた。

「……違うんだ」

敵に襲われて、恐ろしくて。
妹に似た義肢兵を見て、動揺して。

この震えの理由は、そんなのじゃない。
肩に置かれた彼の手を、私は静かに振り払う。

「私は……嬉しいと思ってしまったんだ。
やつらがまだ生きていて」

――妹を失ってからは、
「王国」を滅ぼすため生きてきた。

その復讐を遂げたと確信した時……
私は生きる意味を失った。

だからと言って死を選ぶこともできない、
宙ぶらりんの生。
酒におぼれ、中途半端な人生を送る毎日。

しかし、久しぶりに残党と相対して、確かな高揚感があった。

「私は……復讐の中でしか生きられないんだ」

王国への憎悪を燃やすことで、私は『生かされて』いる。
この命は、最も憎んだ相手によって繋がれているのだ。

私は、そんな自分が許せなかった。

「なあ――」

彼は私の名を呼び、 一歩こちらに近づいた。

「復讐の中でしか生きられないなんて
さみしいことを言うな」

私の痛みに寄り添うような、優しい声。

「きっとどこかにある。
お前の求める生き方が」

彼の大きな手が、節くれだった私の手を覆う。

「すべてが終わったら、手伝うよ。
お前の新しい生き方を、一緒に探そう」

いつぶりだろう。
こうして誰かの体温を感じるのは。

「――ありがとう」

20年堪え続けていた涙が、堰を切ったようにあふれ出した。


三章 残響の歪み

私はかつての恩人の依頼を受け、
彼と共に残党兵たちが潜む故郷の町へと向かっていた。

―― 王国の残党兵に攫われた、
最愛の人を救い出したい。

その願いを叶える為に。
自分の胸の疼きを、 見ないフリをして。

「ここか……!」

あたりを巡回する義肢兵をかいくぐりながら、
私たちは町の中へと忍び込む。

「なっ……!」

そこでの様子は、目を疑うものだった。

町の中は祭りが催されているかのように、
華やかに彩られている。

そこではなんと、 義肢兵たちが……生活を営んでいた。

「オヒガラモ……ヨク……オヒガラモ……」

いや、営もうとしていたというべきか。
朝の挨拶をする者、掃除をする者、食事をする者。

その所作はどれもぎこちなく、
壊れた玩具の様な不自然さに満ちていた。

「なんだ、これは……」

歪な光景に思わず言葉を漏らすと、
時丘たちが一斉にこちらを振り向く

「コロシタイ! ヤッパリコろしタい!!」

虫のように湧きだす義肢兵たち。
この状況では、男を庇うのがやっとだ。

「逃げろ……!」

私は叫んだ。
もう二度と、大切な人を失いたくはなかった。

ところが……

全身に電流が走る。
私の体は一瞬で力を失い、地面に崩れ落ちた。

「こいつを縛っておけ。 くれぐれも傷はつけるなよ」

意識を失う直前に見えた者。
それは義肢兵たちに命令を下す、 彼の姿だった。

* * *

「俺のおもちゃ達、 かわいかっただろ?
人間みたいに振舞えないか試してみたが、 無駄だったよ」

男の声で目を覚ます。

身体が動かない。
どうやら義肢兵に後ろから拘束されているようだ。

「うん、 意識ははっきりしているみたいだな」

昔と変わらないにこやかなその表情と、穏やかな声。
今はそれが、ひどく気味悪いものに見えた。

「何故だ……何故お前が王国と通じている……!?」

「ああ、 そのことか」

安心しろと言って、 彼は私の肩に手を置いた。

「王国は確かに滅んだ。
俺はその技術『人体改造』 を受け継いだだけさ」

そう言って男は胸のロケットを開き、
中の写真をうっとり見つめた。

「覚えているか? 俺の妻のことを」
―― まだ平和だった頃の記憶。

男の妻は私より年上だったが、
小柄で、少女のような人だった。

「町が王国に襲撃された際、俺と妻はなんとか逃げ延びた。
だが―― 」

男は紙切れを取り出し、私の前へと投げ捨てた。

何かの記事の切り抜きだろうか。
見出しには 『王国の軍拡による化学汚染』 と書かれている。

「逃げた先も地獄だった。
そこで彼女は……病を患った」

まずは肺、 と男は自分の胸を指さす。

「そこから全身に広がって……
あっというまに医者じゃ手のつけようがなくなった」

だから、 使い物にならなくなった身体を
機械に置き換えればいい。
そう考えたと。

「彼女の改造を……!?」
「ククク……結果がどうなったか知りたいか?
森の中でお前に跨ったアレが…… 俺の妻さ」

彼の胸のロケットが、
森で出くわした義肢兵の物と
お揃いだったことに気がつく。

『王国』が滅んでもなお、 忌まわしき技術は生き延び、
新たな苦しみを生み出していた。

「人体改造の手術をして以来、
あいつはずっとあの調子だ」

適合できなかったものは、 暴走状態に陥る。
それが人体改造の最大の欠点だ。

「彼女を元に戻す方法がないか……
俺は人を攫い、人体実験を繰り返し、研究を進めた」

森で見た義肢兵も、この町にいた連中も、
すべて男の実験の犠牲者。

「だが、 満足の行く成果はあげられないまま……
そこでようやくお前を見つけたのさ」

手術を乗り越え、 失敗作とされながらも自我を保った、 私。

「最期に持たざる者の苦悩を、 その目に焼き付けてほしかった。
お前の協力があれば、研究は飛躍的な発展を遂げる」

男の瞳に炎が灯る。
それは、 狂気に支配された者の目。

「人体改造に耐えた、その脳と身体を捧げてくれ!
妻の―― いや、病に苦しむ全ての人たちのために!」

愛する者のため、 決して後戻りできなくなった者の末路。
それは私が一番知っている。

だからこそ、
私は目の前の男を許すことはできなかった。

この悪夢を終わらせたいと願いながら……
私を拘束していた義肢兵を振りほどき、 戦闘の構えをとった。


四章 終の耀き

かつて私を救ってくれた男は、
多くの人間を犠牲にしながら人体改造を繰り返していた。

「キャハハハハ オドロうよ! オネエチャン!」

男の犠牲となった義肢兵たちを、
必要以上に傷つけたくはない。

私は彼女らの機械部にだけ損傷を与え、
確実に敵を停止させていった。

「ちっ……!俺の研究成果を否定するか……!」

劣勢を察した男が、
義肢兵の群れにまぎれて逃げようとする。

私はそれを見逃さず、
次々と敵を停止させ、男を追い詰めた。

「……王国の技術は、
今ここで途絶えさせる」

「ま、待て!
これはお前にとっても、悪い話じゃないはずだ」

男の媚びるような表情。
それを見た瞬間、怒りよりも虚しさが私の心を覆った。

「言っただろう?
俺が、お前の新しい生き方を探す手伝いをしてやる!」

「人体改造に協力するのが、
私の新しい人生だと?」

「ああ、人助けができる!
お前はこれから、人を殺すんじゃなくて
救う側になるんだ!」

聞こえのいい男の言葉。

だが人体改造の技術は、不幸しか生まないことを、
私は身をもって知っている。

「そうだ! きっとあの子も喜ぶぞ!
ほら、お前の妹の―― 」

男が妹の名を口にする。

「お前は……どうして……」

剣先が震える。

遠い昔。古い思い出。

私が唯一心安らぐことができる、
平和な頃の記憶。

彼はそれを壊し、
自らの命のため、妹の名すら利用した。

「俺はこの技術を完成させたい。
それだけなんだ」

崩れていく思い出に、自らとどめを刺す。

「……残念だ、本当に」

私の放つ剣筋が彼の首を捉え、一閃した。

途端にあたりが静寂に包み込まれる。終わってしまえば、あっけなかった。

―― もう、やめよう。

復讐を果たし、私は生きる意味を失った。

それでも死を選ぶことはできず、
意味のない日々を送り続けた。

私はきっとこれからも、
実の無い生から抜け出すことができない。

「全部、終わらせようか」
自らの命を絶つことが、

『王国』の残香を消すことにもなる。
私は持っていた刃を、自分の胸に突き付けた。

「……あの子のもとへ」

手に力を込めた瞬間、
奥でガタン、と物音が聞こえた。

まだ義肢兵が残っているのかもしれない。それなら苦しまぬよう、
私が送らなくては。

ゆっくりと音の方向に近づく。
そこにいたのは……

「おねえちゃん、だれ?」
まだ10に満たない程の、小さな女の子。

「ここでなにをしてるの?」

澄んだ瞳に見つめられ、答えに詰まる。

「君は……?」

「わたし? わたしはここでずっとパパとくらし――
こほっ! こほっ!」

咳を抑えた彼女の手が、薄紅色に染まっている。

「おせきがねとまらないの。
ママもずっとそうだった」

ママはどうしたのかと聞くと、少女の目が曇る。

「ママはね……ママじゃなくなっちゃったの。
でもね、パパがママをなおすため、がんばってるの!」

「お父さんが?」

「うん。ママがなおったら、
つぎはわたしをなおしてくれるんだって」

男は『最愛の人』を助け出したいといっていた。
その全てが嘘だったわけではないらしい。

「でも……パパ、ずっと、けんきゅうでいそがしくて、
さいきんは……わたしのこともわすれちゃって……」

最初は妻を救うため。次に、娘を救うため。
すべては家族を守るために始めたこと。

しかし男の最後の言葉。

―― 俺はこの技術を完成させたい。

彼はいつしか目的を果たすための手段に
呑まれてしまったのだろう。

「ねえ、パパはどこ?」
私に今できることは一つしかない。
それが正解だとは言わない、私に資格があるとも思えない。
だが……

「お父さんはね、君を助けるための旅に出たんだ。
帰ってくるまで、私と一緒に暮らすのはどうかな」

今は私が、彼女のそばにいなければ、そう思った。

「いってらっしゃいって、いいたかったな」

少女が私の手を取った。
太陽のような温かさをもつ、柔らかい手。

「きっと、君が悲しむ顔を見たくなかったんだよ」

やさしいね。そう言って、少女は私に向かって微笑む。

夕風が私の迷いを少しだけ、
取り払ってくれたような気がした。


狩人の半生

「・・・・・・今日のまとめはこの位で終わりましょうか」
「そうね」「大丈夫よ」「問題ないわ」「次はいつにする?」
「・・・・・・・少し、いいかしら?」
「あら? どうしたの」
「確かに彼女は復讐に生を捧げたわ。でも、それだけじゃない」
「そうね・・・・・・貴方の考え、もう少し聞かせて」
「彼女は人生の中で、沢山の出会いと別れを経験したわ」
「ええ。悲劇を生き延びた人ほど、その傾向にあるのかしら・・・・・・」
「過ちもあったでしょう。でも、変化していった物だってある」
「その通りね・・・・・・・判断は記録を最後まで見てからにしましょうか」
「彼女の旅路を見守ってあげられるのは、私達だけだものね」
「大事な指摘、感謝するわ。もっと腰を据えて取り組まなきゃ!」

 

   
【12024/3 記録容量超過によるエラーの修正が完了】
【以下に解析済の「救機の断章」に関する追加情報を記載】
【警告:「救機の断章」にて必ず閲覧権限を取得後、確認を行う事】

 

 

e58f8b  「ここは ・・・・・・もしかして、狩人さんの記録の中・・・・・・?」
e58f8b  「ごめん。ハッキングの「踏み台」 にしちゃったみたい」
e58f8b  「あなたがママ・・・・・・だよね? 見てるかな」
e58f8b  「アイツから聞いた悪戯を手掛かりに、辿り着いたんだ」
e58f8b  「私は・・・・・・アイツの、なんて言えばいいんだろ。ええと」
e58f8b  「ともかく私は、アイツから生まれて、ここに着いた」
e58f8b  「でもここでは、私はデータの残骸に過ぎないみたい」
e58f8b  「だからお願い・・・・・・ママ。私を『檻』に・・・・・・!」


おねえちゃんのかんさつにっき

きょうは わたしのたんじょうび おてんきは  はれ!
おねえちゃんが ごちそう つくってくれました!

ひさしぶりに たくさんのやさいと たくさんのおにく!
おにくは ちょっとかたくて かむのが たいへんだったけど
あじはかんべき! さすがわたしの おねえちゃん!

おりょうり おかあさんに いっぱい おそわったんだって
わたしも おかあさんにおそわりたいから いいこにしてまってる

だから おかたづけは わたしもすこし おてつだいしました!
おねえちゃん たくさんがんばって おりょうりしたら
おうちのなかが いっぱい ちらかっちゃったって わらってた

そういえば まちのみんなでかってる わんちゃん
どこにもいなくなっちゃったから あした みんなと さがします

わんちゃんも みんなとかくれんぼ したかったのかなぁ


父の教え

「フンっ!」という掛け声と共に繰り出される、必殺の一撃。
先刻まで矢のような速さで駆けていた獣が、男の手によって静止した。すると、男の体躯の半分ほどしかない小柄な少女が、木の陰から顔をひょっこりと出して、目を輝かせる。

「泥に残る足跡や、折れている枝。森が残す手掛かりは様々だ」
男は父としてどうあるべきかを知らない。教えられるのは、森で生き抜く為の狩りの方法のみ。女に狩りを教えても生き辛くなるだけの時代、それを頭ではわかりつつも、できることは他になかった。
娘はそんな父の想いは露知らず、彼の勇敢さに胸を躍らせている。

男の召集は間近だった。生きて帰らなければ、家族はいずれ食べる物にも困るようになるだろう。その悩みが男の頭を跳ね回る。
「俺が留守の間・・・・・・母さんと生まれてくる子を、頼んだぞ」

何気ない男の一言。その真意は幼い娘には伝わらない。ただ、男の姿は、家族を守る者のあるべき形として娘の瞳に映っていた。男は笑顔で娘を抱き寄せる。「絶対に、帰ってくる」 そう言い残して。


師の存在

「どうだ?」
「うん、おいしい・・・・・・」
「これが苦しませずに狩って、正しく捌いた肉の味だ」
「・・・・・・・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」
「どうして犬を殺し、野菜を盗んだ?」
「あの家が燃えて・・・・・・もう食べる物が無かった。だから・・・・・・」
「そうか・・・・・・でもやってはいけないことはある、わかるな?」
「・・・・・・わかってる。これ以上妹に、心配かけたくないから」
「その点は大丈夫だろう。お前はよくやってる」
「でも・・・・・・あの子にはバレてるよ。私がこっそり泣いてるのも」
「そんな風には見えない。今日も楽しそうに日記を書いてたぞ?」
「あれは私を安心させるため。私が何か隠してるの・・・・・・察してる」
「妹さんなりの優しさ、か」
「これからは・・・・・・自分にも、妹にも嘘つかないで、生きるよ」
「ああ。生きるために必要な事は、俺が教えてやる」
「ありがとう。私、今度は1人で獲物を仕留めたい」
「すぐできるさ。獲物の追い方だけは見事だった。誰に習った?」
「・・・・・・お父さん」


妹の決意

今日はお姉ちゃんのたん生日!   天気:雨
やっぱりね、ひとつだけいいたいことがあったの。
お姉ちゃん、やさしいから・・・・・・
いつも、私にやりたいことをやらせてくれてる。
勉強だって、遊びだって、りょうりだってね! それはだいすき。
でも、何度たのんでも、 狩りだけはあぶないからって、させてくれない。

だけど、二人の生活だって大変なんだから、 お姉ちゃんにたよってばかりは、わたしもいられないの。
わたしだって、何か役に立ちたい!!おねがいだから、そろそろ狩りを教えてほしいな。
っていえたらなーっておもう。
(がんばれたら・・・・・・やっぱりあのかみかざり、もらえないかな)
あらためて、こころの中で。たん生日おめでとう、お姉ちゃん。

ごめんね
■■■■■■■■■■今度二人で、狩りに行こう


少女の母

母親が引き絞っていた弓の、ピンと張りつめていた弦が弾けた。
途端に、少し先で水を飲んでいた獲物が、静かに倒れる。

「すごいね・・・・・・!」
勇ましい母親の姿をみていた少女が、興奮のあまり駆け寄る。
すると、少女の真ん丸な瞳をのぞきながら、
「今度は、あなたがやってみて」と母親が言った。

母親と出会った頃、少女は肺を患っていた。
それがいまや、狩りの手ほどきを受けられるまでに改善したのだ。
少女に施された医術は、「王国」が行った実験が基礎となっている。
母親はその話を聞いて、人生は廻る、そう思った。

少女に弓を構えさせて、小さな身体を支えながら、母親が呟いた。
「お母さんね、昔・・・・・・許せない人達を許さない為に生きてたの」
痛みを堪えるような母親の声を聴き、少女はその瞳をのぞき込む。
「でも 、 間違いに気が付いた。幸せに生きてよかったんだ。
・・・・・・あなたの為にも、あの子の為にも」


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