シークレットストーリー
荒れた廃線路の上を進む。
どれほど歩いただろうか、腹が減って仕方がない。
馬鹿みたいに熱い太陽、青い空、
線路の両脇に立ち並ぶ向日葵。
終わりが見えないほど無数に連なった花が、
地面を黄色く塗りつぶしていた。
その全てに、イライラする。
ようやく、国境の壁を貫くトンネルが見えてきた。
あの先に隣国の街がある。
―― <乳幼児拉致作戦>。
かつてこの国は、優秀な遺伝子を持つ子供を集めるため、
隣国から多くの幼子を攫った。
作戦実行時、もっとも多くの子供たちが連れ去られた場所。
それがこのトンネルの先にある街……俺の本当の故郷。
真実の手がかりを求め、俺はそこへ向かう。
トンネルの傍に、ひとり女が立っていた。
歳は40代半ばだろうか。
手には頑丈そうな杖を握っていた。
彼女はじっと、線路脇の向日葵を見つめている。
俺は黙って彼女の背後を通り過ぎようとした―― その時。
女は杖から剣を抜き、こちらに向けた。
俺はとっさに剣を構え、それを弾き返す。
「軍人が、私の街に何の用だ」
女が、鋭い眼光でこちらを睨む。
「この国の人間は皆、大切な人をその剣に殺されてるんだ」
軍から脱走する時、そのまま持ってきた剣。
鞘には軍の標章が刻まれている。
隣国の彼女にとっては、憎き敵軍の証だ。
「……拾いものだ」
女の眼が鋭く光る。その刹那。
互いの剣がぶつかり合い、あたりに甲高い金属音が響いた。
「そんな言葉、信じると思うか?」
苛烈な女の剣筋。
認めたくはないが、俺は押されていた。
この女、只者じゃない!
女の蹴りが鳩尾に入り、俺の身体は線路の上に投げ出された。
意識だけは手放すまいと耐えるが、上手く呼吸ができない。
……目を焼くような青空と向日葵を背に、
女がこちらを見下ろしていた。
そして彼女は、剣を振り上げる。
「団長ッ!敵襲です!」
突然。トンネルの中から、女を呼ぶ声がした。
女はチッと舌打ちをして、剣を下ろす。
―― 敵襲? まさか。
俺は何とか首を傾け、女の視線の先を追う。
見覚えのある軍服集団が、こちらに向かってくるのが見えた。
あれは、かつて俺が所属していた軍の諜報部隊。
軍から逃げた俺を追って、ここまで来たのだろう。
「ひとり残らず追い払え! 向日葵は傷つけるなよ」
女の号令と同時。
トンネルの内側から、銃で武装した住人が飛び出してくる。
彼らは素早く陣形を組んで、諜報部隊と戦闘を始めた。
まるで、本物の軍隊のように。
どうやら女の注意は、あの軍へ移ったらしい。
―― 安堵すると同時に先ほど受けた傷が痛みだす。
ぼやけていく視界。
雨のように続く銃弾の音。
それは徐々に遠ざかっていった……
「あんた、ぜんぜん綺麗に掃けてないじゃないか」
リビングの埃を箒で掃いていると、怒号が飛んでくる。
後ろを振り返ると、この家の主が立っていた。
2日前、廃線路の上で俺に襲いかかってきた女だ。
彼女は怪我をさせた詫びにと、
自宅の客間を俺に貸し与えてくれた。
……ところまではよかったが、
宿代のかわりに、掃除やらの雑用を押し付けてきたのだ。
「これから見回りに行ってくる。
*あんたはちゃんと掃除しておくんだよ」
―― 国境に位置するこの街は、
常に侵略の危機にさらされている。
彼女は自警団の団長として指揮を執り、
日々街の安全を護っているらしい。
俺にいきなり襲い掛かってきたのも、
街を侵略しに来た軍人だと勘違いしたからのようだ。
直後にやって来た諜報軍に始末されかけた俺を見て、
その誤解は解けたというが……
これ以上、雑用をやらされる筋合いはない!
こんな家、今夜にでも出て行ってやる……
腹立ちまぎれに箒で埃を巻き散らかした時。
突然、ドンッと鼓膜が破れそうなほどの音が響き渡った。
俺は窓へ駆け寄り、外を覗く。
高台にあるこの家からは、街の風景が一望できる。
俺は物見台の上にある大砲から、
巨大な水の玉が飛び出していくのを目撃した。
爆音の正体はあれだ。
巨大な水の玉はトンネルの外側まで飛び、弾ける。
それから、どこまでも続くような廃線路、
その両脇に並ぶ向日葵へと降り注いだ。
きらきらと水の粒が光り、青空を舞う。
その光景に、俺は思わず目を奪われる。
「昔……この街の子供たちが沢山、敵国に連れ去られたんだ」
剣、それと銃。装備を整えながら、女が言う。
おそらく彼女は、
〈乳幼児拉致作戦〉のことを言っているのだろう。
「それで私たちは、連れ去られた子供の数だけ、
*街の入り口に向日葵を植えたんだよ」
線路に沿って立ち並ぶ向日葵。
攫われた子供たちのために植えられたもの。
ならば、あの中には俺の向日葵もあるのかもしれない……
ふと、ある光景が頭の中に浮かぶ。
攫われた子供を想い、向日葵を見つめている男の姿。
そいつは、家族の仇を討つため俺がこの手で殺した軍人。
―― だが、俺が大切に想い続けてきた両親は、
<乳幼児拉致作戦>で俺を攫った敵だった。
そして、あの男こそが、俺の本当の父親で……
「あの向日葵の中にいる子たちの帰りを待っている人が、
*たくさんいるんだ。今でも、ずっと」
女の声で、俺は我に返った。
彼女の瞳は暗く沈んでいる。
俺は目を逸らして、その場を後にした。
そういう辛気臭い話に巻き込まれるのは、面倒だ。
深夜。
俺は荷物をまとめ、家を抜け出した。
怪我も大したことはないし、雑用だってウンザリだ。
なにより俺は一刻も早く、
〈乳幼児拉致作戦〉について調べたかった。
街の大通りに出る。
少し離れた場所を、ランプを持って歩く女の姿が見えた。
―― 彼女だ。
急いでいるのか、いつもと様子が違う。
俺は何かの糸に引っ張られるように、彼女の後を付けた。
女が向かったのはトンネルの先、向日葵の咲く線路沿い。
ランプに照らされ、彼女の口が小さく開かれるのが見える。
向日葵を前に、絞り出すようにして彼女が呟いた、その名前。
その名前は――
名前は。
俺は一歩、二歩、と後退る。
こんな風のない静かな夜では、聞き間違えようもない。
彼女は確かに、
向日葵に向かって俺の名前を呼んだのだ。
ならば。
彼女は俺の ―― ……
ドンッ、と両手に持ったバケツを物見台の上に置くと同時に、
ため息が漏れる。
大量の水が入ったバケツを両手に、
何度も物見台を上がるのは楽ではない。
この街では毎朝、街の入り口にある向日葵畑に、
大砲で水を撒くことになっている。
そのための水を運ぶのも、
大砲を撃ち上げるのも自警団の役割だ。
―― 俺は今、
あの女が団長を務める自警団に身を置いていた。
「よぉ、新入り。お疲れさん」
体格のいい自警団員がバケツを持ち上げる。
彼は慣れた手つきで、水撒きの準備を整えた。
「耳を塞いでろよ」
爆音と共に水の玉が飛び出し、
向日葵畑に向かって飛んでいく。
物見台の下、
廃線路に置き去りにされた列車に乗って遊ぶ子供たちが、
水の玉を見上げ、歓声を上げていた。
「半年前に団長が始めたんだ。
*今じゃ、みんな毎日これを楽しみにしてる」
「……なんで、こんなこと」
水やりの方法なんていくらでもある。
手間のかかる大砲を、何故わざわざ使うのか。
「証明したいらしいぜ。
*兵器ってのは人を殺すためだけのもんじゃないって」
―― 使いようによっては、花だって咲かせられる。
彼は屈託なくそう言ったあと、
少し視線を落として話をつづけた。
「団長の旦那が戦死したのも半年前だ。
*きっと想うところがあったんだろうな」
団長の旦那 ―― それは、
俺の本当の父親、俺が殺した男のことだ。
「ああ……」
俺は適当に相槌を打ってから、物見台を降りた。
まだ、次の仕事がある。
午後になってから、俺は彼女と共に市場へ出た。
戦場で負傷し、
体が不自由になった退役兵に渡す物資を買うためだ。
自警団じゃ調達だけじゃなく、配達までやるらしい。
与えられるのは退屈で面倒な仕事ばかり。
……それでも俺は、自らの意思で自警団に残っていた。
「寄越せ」
俺は女の手から荷物を奪い取り、先を歩く。
女は「余計なお世話だ」と毒づいた後に、
「でも、いつも助かってるよ」と笑った。
この数週間で、変わったことがある。
それは、この女が俺に笑顔を見せるようになったことだ。
たくさんの荷物を持って、
俺たちは退役兵の家を回っていく。
女は彼らに物資を手渡し、軽く談笑をする。
俺はその間、ドアの外でぼんやりと時間を過ごした。
何軒目かの家を訪ねた時。
彼女は長く話しこみ、
なかなか出てこようとしなかった。
ずいぶん親しい相手らしい。
時折、ドアの向こうから笑い声が聞こえてくる。
「おい。早くしろ」
俺はしびれを切らし、ドアを開けて彼女を呼んだ。
そして ―― ソファに腰掛け、
彼女と話し込んでいた義足の男と目が合う。
笑い声が、途絶える。
楽しそうにしていた男の顔から、色が消えていた。
不吉な静寂。
そして――
「お前は ―― !」
男は目を充血させ、俺に飛び掛かってくる。
背中が床に叩きつけられる衝撃。
俺は男に、首を絞められていた。
「その顔、忘れるものか……」
「落ち着けッ!その手を放すんだ!」
彼女は男を羽交い絞めにし、俺から引きはがした。
しかし男は、女の腕の中でもがきながら声を張り上げる。
「団長ッ!離してください、そいつは ―― 」
やめろと叫びたかった。
だが息が苦しくて声が出ない。
「俺の隊長を殺した敵兵です! 貴方の旦那を殺した仇です!」
部屋が、しんと静まり返る。
「……今のは、本当のことなのか?」
頭上に、震える女の声が降りかかってくる。
身体が震えている。
どんな戦場でも震えたことなんてなかった、この身体が。
―― 長い、沈黙の時間。
何も言わない俺を見て、彼女の目が暗くなる。
「出て行け。二度と顔を見せるな」
やがて、女が俺に剣を向ける。
出会った日と同じように。
そして、あの時よりも、ずっと、恐ろしい瞳で。
「出て行けッ!」
俺は震える足をもつらせながら、家を飛び出した。
そして街を駆け抜けながら、自分の愚かさに気が付く。
俺は……怖かったのだ。
実の母親に、夫の仇として憎まれることが。
だから彼女の傍にいて、
少しでも罪滅ぼしをしようとしていた。
そんなこと、できるはずもないのに……
速く、速く、と自分を急かす。
暗い夜道に響く、荒い呼吸の音、乱れた足音。
―― 二度と顔を見せるな。
彼女は、そう言った。
だから俺は、死ぬまであの街には戻らないつもりでいた。
だが知ってしまったのだ。
あの地が、ついに敵国の手に落ちたと。
だから俺は走る。
ただひたすらに、走る。
三ヶ月前に訪れた、あの街を目指して。
ようやく街の裏門に辿り着く。
高い壁に囲まれた街からは、
赤々とした炎が立ち上っていた。
俺はゆっくりと、中に足を踏み入れる。
物資不足でもたくましく商売をしていた市場の店主たち、
廃列車で遊んでいた子供たち、
威勢のいい自警団員たち……
この街を形作っていた人々は皆、
焼けただれた姿で地面に横たわり沈黙している。
街は静かだった。
ただ火の爆ぜる音だけが、パチパチと鳴り響いている。
崩れた物見台の下に、
体格のいい自警団員の遺体が挟まっていた。
その隣には、大砲の残骸。
水を撃ちあげるために使われていたはずのそれからは、
強烈な火薬の臭いがした。
見覚えのある顔が、
変わり果てた姿であちこちに転がっている。
だが、彼女の姿だけは、どこにも見当たらない。
―― もしかして。
湧きあがった予感が、次第に確信に変わっていく。
俺は糸に強く引っ張られるようにして、再び走り出す。
彼女が大切にしていた、あの向日葵のもとへと。
トンネルを抜け、廃線路に出ると、
線路脇に立ち並ぶ向日葵がすべて燃え上がっているのが見えた。
夜空の下、どこまでも続く火の道のように。
明々と燃え上がる炎が、
線路の上にひとり横たわる女の影を浮かび上がらせている。
俺はゆっくりと、彼女の元へ歩み寄った。
傷だらけの、その身体。
ここでどれだけの敵と戦ったのだろう。
「 ―― すま、ない……」
女が、小さく口を開く。
―― 生きている!
俺は急いで女の身体を抱き起こした。
だが、炎の傍にいるというのに、彼女の身体は冷たい。
「……あの子に、会いたかった」
〈乳幼児拉致作戦〉で攫われた
子供たちのために植えられた、向日葵。
それは彼女にとって息子そのものだった。
だから死の間際に、ここへ来たのだろう。
「会いたかった……」
女は命を絞り出すように、そう繰り返した。
―― あんたの息子なら、目の前にいる。
そう伝えられたら、
少しはマシな最期にしてやれたかもしれない。
だが、言えるはずもない。
夫の仇である俺が、本当の息子。
そんな残酷な真実を伝えれば、
今以上に彼女を傷つけてしまう。
やがて、強く握りしめられていた女の手が開く。
中から向日葵の花びらが一片、こぼれ落ちた。
見れば彼女はもう、息絶えていた。
「……いつか、会いに行く」
俺は彼女の遺体に、そう告げた。
向日葵を燃やす火の粉が、
昏い夜空へ昇っては消えていく。
夜明けはまだ、遠かった。
運送屋 「では、早速。引継ぎのお時間と参りましょうかッ!!
運送屋代理 「復讐・・・・・・少年・・・・・・っス」
運送屋 「なるほど。復讐に心を囚われた少年兵士、ですか」
運送屋代理 「暴力的・・・・・・喧嘩・・・・・・っス」
運送屋 「協調性がなく凶暴。常に誰かと揉めている・・・・・・と」
運送屋代理 「本当は・・・・・・怖がりで・・・・・・行動っス」
運送屋 「ふむふむ。従来の臆病さを隠すための行動、ですか」
運送屋代理 「・・・・・・優しい・・・・・・っス」
運送屋 「時折、優しい一面を見せることもあるんですねえ」
運送屋代理 「虫・・・・・・逃がす・・・・・・野良猫に餌・・・・・・っス」
運送屋 「迷い込んだ虫を逃がしたり、野良猫に餌を・・・・・・ふむ」
運送屋代理 「隊では・・・・・・可愛がられて・・・・・・っス」
運送屋 「隊員たちはなんだかんだで彼を可愛がっている・・・・・・
「 戦争さえなければ普通の少年だったのでしょうねえ」
運送屋代理 「・・・・・・ッ・・・・・・っス」
運送屋 「すみません。少々、聞き取りづらいのですが」
運送屋代理 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っス!」
運送屋 「え? 髪の一部が常に跳ねている・・・・・・ですって!?」
最初に言っておく。返事を書くつもりはなかった。
だが、あんたを尊敬する物好きな輩もいるらしい。
返事を出さないと、そいつらに睨まれる。
これ以上の面倒はごめんだ。
洗濯当番の仕事に不備があってすみません。反省してます。
炊事当番の際はもっと協調性を持ちます。努力します。
隊員と口論をしてすみません。これからはなるべく気をつけます。
隊の一員であるという自覚を持った行動を心がけます。
以上です。
第一、同じ軍にいるのにわざわざ手紙を寄越す必要はないだろう。
あんたは俺の親代わりじゃないんだ。こんな世話焼きは必要ない。
それに俺は、親がいなくたって、ひとりで生きていける。
・・・・・・確かに前回の作戦では、あんたに助けられた。
それは感謝している。だが、この借りは必ず返す。
だから、これで最後だ。あんたに礼を言うのも、手紙を書くのも。
TOP SECRET
優秀な運動神経に、明晰な頭脳・・・・・・この子は特別だ。
今まで育ててきた“息子”の中でも、頭ひとつ抜けている。
我々は、非常に良い個体を引いたようだ。
生粋の臓病さ。優しすぎる性質。これらの点は玉に瑕だが、
多少の弱さがあればこそ、その牙には激烈な鋭さが宿るもの。
この欠点は、利益に満ちているとさえ言えるだろう。
更に喜ばしいことに、彼は自ら軍人を志す旨を語ってくれた。
“両親”として、楽しみと言わざるを得ない。
彼が軍人としてこの国の英雄となり・・・・・・
世界をより良いものに、変えてくれる日が。
書類作成者 ■■■■■
【近年頻発する拉致事件に関して】
・敵国は、我が国から幼い子供を拉致する作戦を行っている
・拉致作戦が活発になったのは近年だが計画の始動は30年前
・対象は主に、軍人適性が高いと思われる家系の乳幼児
・攫われたのち偽の親により、愛情をもって「育成」されるという
・一方適性に欠ける子供は、「施設」に収容されるという情報あり
・当該作戦は、敵国内では最高機密として扱われている
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今頃、息子も悪しき敵国の思想に洗脳されていることだろう。
そうなれば最早、彼を我が子と呼ぶことはできぬ。
妻はいつまでも息子の帰りを待っているようだが、
まったく愚かであると言わざるを得ない。
血の繋がった息子が相手といえど、一度敵の思想に染まった者を
受け容れることは、祖国に対する冒涜だ。 もしも再び息子と相見えることがあれば、私は必ず彼を討つ。
□□□から幼児を摺い、軍人として育成□□□□
□□の軍部が行う「乳幼児拉致作戦□□
□年前、その被害者の一人である少年が保護□□□
家族の元に帰還したという報道があっ□□
□初、少年は実の両親との再会を喜んだという。
しかし少年は最早、敵国の思想に染まっていた。
あれほど再会を喜んだ少年と両親はいつしか、
□□どこかで互いを軽蔑し合うようになっていたと□□□
そして先日。ついに、彼の一家は崩壊し□□
一家心中。母親が家に火を放った事で、全ては灰燼に帰したのだ。
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つまり、拉致された子供の洗脳を解くことは容易では□□□
□えに私は、もしも攫われた息子と再会す□ことがあれ□□
□□として、この手で彼を討たねばなら□□□えてい□□
□の時、彼は私の正体に気が付くのだろう□□
□□私や妻の存在を□(※破れた部□はファイル内□□□□□□
先の休暇のこと。
久しぶりに帰った家に充満していたのは、埃とカビの匂いだった。
あの家には、凡そ生活感というものが欠けている。
街の自警団の団長を務める妻は、ほとんど家に帰らず街を哨戒する忙しない日々を送っているようだった。
「いつか、あの子が帰ってくる街を守りたい」
二人で食卓を囲んでいる時。
妻はそんな風に、自らが剣を振るい続ける理由を語った。
だが私は軍人として、
妻の言うことを受け入れるわけにはいかなかった。
一度敵国の思想に染まった者を再び我が子として迎え入れるなど、考えてはいけないことなのだ。
それでも妻は、毅然とした態度を貫きながら話していた。
たとえ、どれほど悲しい再会になったとしても、
二度と会えないよりは、ずっといいのだ・・・・・・と。
休暇が終わり、街を出る際。
私は街の入り口に続く廃線路沿いに、一つの苗を植えた。
いつか、この街に帰ってくる者の道標になる花が咲けばいい。
そう思い、花屋の店主に尋ねて買ったのだ。
一番眩しい色の花。一番遠くまで見える鮮やかな花が咲く苗を。
真実を知ることが、息子にとって幸福なことかは分からない。
だが、希望を求めることくらいは許されてもいいはずだ。
どうか妻と息子が、再び会うことができるようにと。
そして私もまた、私にできることを始めようと思う。
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