シークレットストーリー
夜の基地に、警報機の音がけたたましく鳴り響く。
「脱走兵が出た。可能であれば生け捕りにしろ」
盗んだ通信機から、指揮官の声が聞こえてくる。
様子をうかがおうと物陰から顔を出した瞬間、
サーチライトが頬をかすめた。
まずい……!
人の二倍はある巨大な機械の体。
その目は脱走兵を逃すまいと、闇夜の中で怪しく輝いていた。
一体、二体……徐々にその数が増えて行く。
私は気配を悟られないよう、ゆっくりと移動を始めた。
―― 何故こんなことになってしまったのか。
その理由はわかっている。すべては『花』のせいだ。
やつらは突如現れ、人々から幸せな生活を奪っていった。
私と妻からは、まだ幼い息子を……
復讐のため『花』と戦う兵士に志願したが、
人類は未だ勝機を見いだせないままでいた。
妻は戦うことに疲れたのか、最近はふさぎ込みがちになっている。
このままでは、私は彼女まで失ってしまうかもしれない。
八方ふさがりの現状を打破するため、
私は『花』に対する独自の調査を始めた。
情報を得るために向かったのは、基地の奥。
指揮官以上しか出入りできないエリアに入り、
サーバーから情報を盗み出す。
危険を冒した分、得られた情報は大きかった。
サーバーの奥深くに、隠すように保存されていたデータ。
それは『花の巣』と呼ばれる、敵群生地の所在地を示している。
ここには何かある。私の直感がそう告げていた。
さらに深くデータに潜ろうとしたところ、
探知器に引っかかってしまい、私は逃亡を余儀なくされた。
物陰に隠れ、気配を殺し、基地の出口に近づいていく。
あと少しでここから脱出できる……
盗み出した情報を入れた携帯端末。
懐にしまったそれに、そっと触れた瞬間。
強烈な光が私の全身を照らす。
「脱走者発見」
温度の低い機械の声。
鉄の巨体がこちらへと迫って来る。
「くそっ……!」
さらに大きくなる警報機の音。
ここで捕まれば、すべてが水の泡になってしまう。
「武器を捨て、両手を上げなさい」
サーチライトの眩しさに目を細める。
私は基地から持ち出した剣の柄に手をかけた。
「そう焦るな。抵抗はしない」
武器を投げ捨てると、
それはがちゃんと大きな音を立てて地面に転がった。
「これでいいか?」
「―― 追跡対象者を拘束します」
機械は指揮官たちへ通信を入れる。
それから私を捕まえるため、こちらに一歩近づき――
「悪いが、少し眠っててもらおう」
姿勢を低くし、機械の脚の間を通り抜ける。
そのまま相手の後ろに回り込み、腕の力だけで巨大な背中を上る。
あった……!
首の付け根にあるカバーを外すと、ソケットが姿を現す。
私はケーブルを使って、
懐から取り出した端末を機械の体へと直接繋いだ。
「マルウェアの侵入を確認。強制終了を実行」
持ち出した武器は剣だけではない。
こういった事態を予測し、
携帯端末に自己増殖型のウィルスを保存しておいたのだ。
機械の動きが止まるのと同時に、
剣を回収しその場から走り出す。
これ以上、大切なものを失わないため。
『花』との戦いに、終止符を打つために。
一縷の望みを抱き、私は『花の巣』へと向かった。
基地から盗み出した『花の巣』の情報。
携帯端末に入れたマップデータを頼りに、
私は長い道のりを進んだ。
データを見る限り、巣の制圧には成功しているようだ。
しかし、上官たちは1人として調査員を送り込んでいないらしい。
本来であれば『花』の生態を調べる絶好の機会なのだが……
どうも奇妙に感じる。
夜が明け朝を迎えたころ、
私は目的地である『花の巣』へと到着した。
周囲には何人かの遺体が転がっている。
ここを制圧するために送り込まれた兵士だろう。
戦いの跡がそこかしこに残されていたが、
私の目を引いたのは別のものだった。
見上げるほど巨大な建物。
雨風に晒され薄汚れてはいるが、
それは奇妙な荘厳さをまとっていた。
半壊している扉の隙間から、中へと侵入する。
「なんだ、ここは……」
建物内は薄暗く、果てが見えないほどに広い。
頑丈そうな壁は蔓でびっしり覆われていた。
崩れた窓から差し込むわずかな朝日を頼りに、奥へと進んでいく。
床には割れたガラスや、壊れたベンチの破片が転がっていた。
「ドウカ……ドウカ……」
ささやくような女の声が、どこかから聞こえてくる。
「……誰かいるのか?」
闇の中から返って来るのは沈黙だけ。
慎重に歩みを進めると、ようやく建物の果てが見えてくる。
「ジヒヲ……」
次に聞こえてきたのは男の声。
まさか複数の生存者がいるのだろうか。
人影を探し、あたりを見回した時。
「……!」
建物の最奥。
そこにいたのは、小さな『花』の幼体たちだった。
幼体の花弁に浮かんだ顔は、
苦悶の表情を浮かべながら言葉を唱え続けている。
「キュウサイヲ……」
何人もの声が重なる。
あれは『花』に食われた人間のなれの果てだ。
だが、彼ら自身に意思があるようには見えない。
―――彼らは自ら喋っているのではない。
『花』に喋らされているのだ。
幼体たちは、人の顔が浮かびあがった花弁をゆっくり下に向ける。
頭を垂れたその姿は、何かに祈っているように見えた。
「ハハヨ……オタスケ…」
『花』の幼体が祈りをささげる先にあるのは、朽ち果てた祭壇。
そこに安置されていたもの。
「あれは―――」
1枚の大きな肖像画に目がひきつけられる。
薄汚れているせいで
どんな人物が描かれているかはわからなかったが、
不思議と胸の奥をくすぐられるような感覚がした。
―― 何故こんな気持ちになるのだろう。
その疑問に答えてくれる者はいない。
建物の中には、囁くような祈りの声だけが響いていた。
「アァ……ア……ゥ……ミンナ、死ンダ……」
薄汚れた建物の中で、一番小さな『花』の幼体がすすり泣く。
すると中くらいの個体が、慰めるように話しかける。
「ダイジョウブ……ハハガ……助ケテクレルカラ……」
「我々ヲ、オツクリニナッタ、ハハナラ……」
建物内に再び響く祈りの声。
それはひどく奇妙で、何よりも醜悪だった。
私と家族から幸福を奪ったやつらに
救いを求める権利などない。
「ギッ……!?」
音もなく後ろから近づき、
顔の浮かんだ花弁ごと、幼体たちを叩き切る。
私は幼体の亡骸を足でどかしてから祭壇へと近づき、
薄汚れた肖像画をじっくりと見た。
「ん……?」
祭壇の裏に、一冊の本が落ちているのを見つける。
誰かの手記だろうか。ひどく痛んでおり、
中に書かれた手書きの文字はところどころ消えてしまっている。
だが、読めそうなページがいくつか残っていた。
「『花』信仰か……」
以前聞いたことがある。
『花』こそが世界を救済する存在だと信じ、
崇める者たちがいたと。
ここはそういった人間が集まる礼拝堂だったらしい。
脆くなった紙を破らないよう、慎重にページをめくっていく。
どうやら『花』を信仰する者たちは、
ここに『花』の幼体を招き入れ共同生活を行っていたらしい。
しかし最終的にはやつらに食われ、礼拝堂から人は消えた。
今は『花』だけが残り、無意味な祈りを捧げ続けている。
手記を読み進めていると、肖像画という言葉が目に入る。
私は慌てて手を止め、食い入るようにそれを読んだ。
肖像画は、ひとつの象徴として扱われているらしい。
『花』に並ぶほど、尊く大切な存在。
何故、それほどまで大事にされるのか。
その答えは、ページの最後に書かれていた。
肖像画の人物。それは『花』の研究責任者。
この世に『花』を生み出した人物。
その者の名は――
信じられない。いや、ありえない。
祭壇に上り、必死に手を伸ばし肖像画の汚れを払う。
固まった土や埃の下から出てきた顔。
―― 冷たく、神経質そうな表情。
雰囲気は全く違うが、顔立ちは彼女に瓜二つだ。
動揺でふらつく体を支えるように、肖像画の枠に手をかけた瞬間。
ぼとり、と何かが落ちる音がした。
ぼと、ぼと、ぼとり。
今度は複数。
ずいぶん痛んだ建物だ。
どこかかが崩れ落ち始めていても不思議ではない。
そう思い天井を見上げると、
暗闇の中で何かがうごめくのが見えた。
あれは……!
建物の天井。
一見蔓に覆われているように見えるが、よく見ると違う。
無数の『花』の幼体が複雑に絡み合い、屋根を形作っているのだ。
「――――!」
甲高い声を上げ、幼体たちがこちらへ迫って来る。
私はそれを斬り捨てながら、建物の外へと脱出した。
ここには『花』の知的活動を裏付ける証拠が眠っている。
そのデータは大いに研究の役に立つだろう。
もしかするとやつらを倒す方法を見つけるための
糸口になるかもしれない。
それを理解しながら、私は礼拝堂に火を放つ。
『花』たちを焼き払うと同時に、あの肖像画を抹消するために。
真っ赤な炎は風を受け、うねりながら大きくなっていく。
そして見上げるほど巨大な建物を飲み込み、
全てを焼き払っていった……
礼拝堂を焼き払ったあと、私は再び長い道のりを歩いた。
目指すのは妻が待つ基地。
そこに到着した頃、日は沈み夜になっていた。
脱走兵として追われる身である以上、
誰にも見つかってはならない。
細心の注意を払いながら、
私は妻と暮らす小さな部屋へと戻った。
「あなた―― !」
ずっと私の帰りを待っていたのだろう。
疲れ果てた顔をした彼女が、椅子から勢いよく立ち上がる。
「今すぐここを出よう」
戸惑う彼女をよそに、私は荷造りを始める。
まずは息子の写真、それから遺品。
何かの時のためにと、任務中にくすねておいた携帯食。
「出るって……こに行くつもりなの?」
「わからない」
私の答えに困惑の色が強くなる。
「いきなり消えて、帰ってきて、基地を出るだなんて……!」
反対の立場なら、私もそう言っただろう。
「手短に話す。よく聞いてくれ」
あの礼拝堂で見たこと全てを彼女に話す。
奇妙な『花』の幼体たち、祭壇……そこに置かれた肖像画。
―― 妻と彼女と瓜二つの『ハハ』と呼ばれる人物のこと。
「あなた……夢でも見たんじゃないの?」
だって、そんなのありえないものと彼女が続ける。
その通りだ。
『花』と戦う彼女が、奴らの『ハハ』であるはずがない。05
「上官たちは何かを隠してる」
『花の巣』となった礼拝堂。
彼らはあそこに何があったのか、知っていたはずだ。
その上で、あえて調査隊を送り込まなかった。
その狙いが何かはわからない。
ただ不吉な予感だけが、私の全身を支配する。
「行こう」
鞄の口を閉じ、妻のほうへと手を差し出す。
しかし――
「機密クラスAの情報を認知した形跡あり」
返ってきたのは、そんな言葉だった。
部屋の扉が開き、数人の指揮官が彼女の後ろへと並ぶ。
「情報を認知したのは昨夜から今日の朝方にかけてと思われる。
*でも念のため2日分の記憶を消去しておいて」
「承知しました」
指揮官たちは彼女の言うまま私をとらえる。
「待て! なぜ君が―― !」
指揮官たちに命令を下すのか。
私の記憶を消そうとするのか。
そう問う前に口をふさがれ、地面へと無理やりねじ伏せられる。
私は大きな勘違いをしていた。
何かを隠していたのは上官ではない。
「これが、あなたのためなの」
冷たい棒が首筋にあてられる。その瞬間、全身に電流が走った。
死の危険を感じた体が、頭の中で記憶を迸らせる。
まるで走馬灯のように。
浮かんでくるのは妻の笑顔、泣き顔、怒った顔。
私は彼女のすべてを知っていると思っていたのに。
しかし目の前にいる妻の表情は、冷たくて、とても神経質。
それは、肖像画に描かれていたものとうり二つだ。
彼女の真意も真実もわからぬまま、
私の意識は暗闇の中へと飲まれていくのだった……
復讐のため『花』と戦う囚人の男・・・・・・
いやあ、なんだか映画みたいなお 話でしたねぇ!
愛のために復讐に生き、そして愛のために地獄へ落ちる。
やはり人間の愛情というものは、奇怪なものです。
どれだけ力を持とうが、どれだけ質かろうが
愛は判断を鈍らせ、目を曇らせる。
まるで口にしたら最後・・・・・・
ゆっくりと体を蝕む、毒薬のようだと思いませんか?
その毒にすら酔えるのが、
あの男の凄味なのかもしれませんねぇ・・・・・・
愚かだという者もいるでしょうが、
私は好ましいと思いますよ。
・・・・・・ああいう純粋な人間は、いくらいても困りませんからねぇ!
おう、今日もやるか? カードならあるぞ。レートはいつも通りでいいだろ。は? なんだよ。063yに負けたから賭けるもんがないだろって? おいおい、なめてもらっちゃ困るな。あのあと大逆転して全部取り戻した・・・・・・っつーのは、まあ嘘だ。大負けだよ、大負け。あいつ表情変わんねーから、やり辛いんだよなぁ。けど、あんだけ大勝ちしたくせに「これだけでいい」って、テーブルから紙1枚ひょいっと取ってどっかに行ったんだよ。他に賭けたもんはぜ一んぶ無事だ。変わったやつだよなあ。そりゃ確かに、俺ら囚人にとっちゃ紙は貴重品だけどよ・・・・・・お? なんだなんだ? あいつ、 奥さんのご機嫌取りに手紙書いて贈ってんのか? へぇ~・・・・・・それで紙だけ・・・・・・なんだよ、意外と可愛いとこあんじゃねえか。
花となりて 降り給う
■↑ココゆっくり慎重に歌う! 息継ぎ丁寧に!!
我らに真(まこと) 知らせ
■↑一音ずつハッキリ
心ゆだねれば 救われる
■↑つらくてもお腹から声を出す 裏声禁止
花となりて 降り給う
■↑ハーモニー大事に ひとりで走らない
我らのもとに 汝のもとに
■↑最後盛り上げる! みんなを泣かせるつもりで
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賛歌隊のお披露目、緊張するけど楽しみ!
当日はお昼に「祈りの堂」の裏口に集合して、
そのあとすぐリハーサル
立ち位置、確認忘れずに!
■一見穏やか■■え他の囚人からの信頼も厚いが、妻である女囚が 「関わる場面■■、予測できない■動を取ることが多い。あと何度か逸脱行動を取れば■■■個体として認定■受けるだろう。
■以前、処分したエラー■体に「人■■し」と罵られた。そんなこと、言われなくてもわかっている。
■上は囚人など消耗品も同然だと言■■、自分■■そう思えな■。直に接していると、意思も人格もあると■■■■感じる。それを 「廃棄」するのは苦痛を■■作業だ。
そんな気持ちを同僚に話し■■、感傷的な心理状態■陥■■■ 「エラー」に該当する可能性があると■■■■。
■冗談なのか、もしくは本■■■■■■■■■■・・・自分には判■■つかなかった。不安と恐怖を■■■■
■これもエラーの兆候だろうか。怖■■
「第1節 祝祭」
『花』は、しもべとなる五人の祭官たちに命じました。
私たちを信じ、付き従いなさいと。
それが始まりの日となりました。
祭官たちは信者と共に「花」にすべてを捧げると誓いを立て、
その代価を支払ったのです。
そうしてできたのが、この祈りの堂です。
委ねなさい。捧げなさい。
そうして我らは『花』となり、新たな世界へ至るのです。
君への手紙はこれで何通目になるだろうか。
伝えるべき気持ちも言葉も、書き尽くしてしまった気がする。
そう思ってもなお、どうにか紙を手に入れて、
インクのなくなりかけたペンを持つことがやめられない。
無理して書かなくていい。君ならそう言うだろう。
だが、こうして君に宛てた何かを残すことが
私自身の救いになっているのだと思う。
私という人間が君を愛し、
君と共に歩んだ証を刻むことができた、と。
次の討伐では、別々の部隊に配属される。
もし私に何かあったら・・・・・・
この手紙を私の代わりだと思ってくれ。
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