ヒトと世界の物語
序ノ壱:青藍の章『すべてのはじまり』
少女と大男は見知らぬ深い森の中を進む。状況が掴めぬまま辿り着いたのは、木漏れ日の中に潜む祭壇。その中心には一本の剣が刺さっていた。不思議なことに、その剣を見つめていると、刀身に人の姿が浮かび上がる。人の姿の幻影は、かつての剣の持ち主らしい。彼は、その剣と共に乗り越えた戦いの物語を語る。幻影が満足そうに語り終えると、白い異形が剣を持ち去ってゆく。異形は、少女達が「ママ」と呼んでいた存在だ。ママの目的は、全ての武器を集め、管理することだった。
武器の回収によって生み出された、謎の石柱を掻い潜りながら進む二人。何かがわかると信じて、ママを追いかけた先に現れたのは、この世のものとは思えない美しい景色。男は思わず、この場所を知っていると叫ぶ。そう、そこは『檻』と呼ばれる地の、かつての姿だったのだ…
楽園のような世界へ侵略を試みる黒い敵と、抵抗する人々との戦いの歴史。人々は次々とカゴに囚われてゆき、敗北は決定的だった。そんな中、少女は一際大きいカゴに気づく。カゴの中で眠るように佇むのは、少女が見覚えのある、黒き怪物。記憶の底に沈んでいた、夢の中の大切な友達との思い出が呼び覚まされる。少女が怪物を助けようとするものの、それは幻影でしかないようだった。しかし、怪物は必ずどこかにいるはずだから、今度は自分が彼を助けるのだと、少女は決意する。
さらに先へ進むと、今度は黒い鳥の大群が視界を覆う。鳥が通り過ぎるたびに深くなる戦いの爪痕。崩壊してゆく景色。そして、幾度もそれが繰り返された後……二人の前に石造りの塔が現れる。少女達は理解した。黒い敵との戦いによって楽園は壊され、彼女らの知る『檻』が造られたのだと。
さらなる猛攻に飲まれ、既に『檻』は陥落寸前だった。二人は多くの犠牲者に心を痛めつつ、先を急ぐ。灼熱の戦塵に阻まれながら、怪物を助けたい一心で進み続ける少女と、それを支える大男。やっとの思いで最奥に辿り着くと、そこには黒い敵と対峙する白髪の少女がいた。
彼女を助け、ともに敵を退ける少女達。勝利を分かち合ったあと、少女は尋ねる。「くろくて、おっきなカイブツさん」を見てはいないかと。意外なことに、白髪の少女はそれを目にしていた。怪物の行方がわかるかもしれないと少女は喜んでいると、突如、大量の黒い鳥が彼女らに襲いかかる。「危ない!」そういって白髪の少女を庇った大男は、黒い鳥の群れによって、跡形もなく消えてしまった。「カイブツさんを必ず助けてやれ」、そう言い残して……
怪物と大男を救おうと、白髪の少女とともに勇気を振り絞る少女。地獄のような牢獄を無力感に耐えながら先へ進むと、最奥に怪物が囚われるカゴがあった。カゴの前で、少女は願う。彼を助ける為ならなんでもするとすると、どこからか黒い鳥が現れて大きな爆発が生まれ……少女は大男と再会する。彼はママの手で呼び戻され、少女を助けに現れたのだった。
三人は改めてカゴと対峙する。黒い鳥は、少女と同じように、『檻』へ迷い込んだ事に怯えているように見えた。少女が頭を撫でると、黒い鳥は鳥籠へと帰り、そして怪物もまた解き放たれる。かつての記憶を失ってしまった怪物に、少女はまた思い出を作ろうと語りかけた。そして手を取り合い、彼女らは現れた大きな扉へと歩き始める。守るべきものが生まれた彼女らに、すでに迷いはない。
序ノ弐:紅緋の章『欠けた子供達』
剣士の女は見覚えのある屋敷にいた。そこは、確かに女が最後の「仕事」を果たそうとした場所だ。彼女は戸惑いながらも、魔法使いの少女を連れて屋敷の中を進む。すると、二人の前に現れたのは、女に瓜二つの幻影。だが、女と決定的に異なるのは、幻影がまとう冷たい空気だった。
幻影は、かつての女と同じように、大名の跡継ぎの始末を命じられていた。やがて、跡継ぎの佇む座敷に辿り着くと、幻影は冷酷に、その命を奪う。
様子を見ていた魔法使いの少女は、女に軽蔑の眼差しを送る。少女は幻影が、女のかつての姿と考えたのだ。しかし、女はそれを否定する。彼女は確かに選んだはずだった。跡継ぎを助け、己の役目にこそ刃を向けることを。二人は、その正体を確かめるため、心まで鬼に捧げた幻影と対峙する。
魔法使いの少女が暮らした学舎は奇妙に歪み、生徒達は正気を失っているようだった。襲ってくる生徒達をいなしながら、少女は剣士の女と共に街の広場へと逃げる。そこにいたのは、少女に瓜二つの幻影と、ツンツン頭の少年。彼は少女が密かに想いを寄せていた親友だ。しかし彼が好意を向けていたのは、もう一人の親友――眼鏡の少女だった。眼鏡の少女への想いを口にする少年に、幻影が杖を掲げる。すると少年は幻影に操られ、幻影への愛の言葉を述べるのであった。
幻影の愚かな行為を止めようとする少女を、操られた少年が阻む。剣士にその場を任せ、幻影の後を追う少女。すると、己を呪って獣人となった眼鏡の親友と出会う。互いに複雑な想いを抱きながらも二人は、幻影のもとへ辿り着く。そして少女は自身の心の闇を払うように、幻影に杖を向けた。
剣士と別れ、獣人を見失った魔法使いの少女は、再び屋敷に迷い込んでいた。しかし以前とは、その様子は異なっている。奥へ奥へと進むうちに、辺りの風景が歪んでゆく。どうやら、周囲が謎の「記号」に侵されているようだった。恐怖を覚えた少女は出口を目指して走りだす。だが、ついには彼女自身も、そして彼女の言葉すらも「記号」に侵食されていった……
ふと気が付くと、少女は先ほどの剣士の幻影と、再び相まみえていた。容赦なく繰り出される一閃に、少女は為す術なく立ち尽くす。すると、突如現れた剣士が少女を守るように立ちはだかった。気を取り直して、杖を構える少女。かたや幻影は、任務の為に非情となる自らの生き方を肯定するように説きつける。「剣客なら刀で語りな」そう吐き捨てて、剣士は刀を構え直した。
獣人を探す為、少女と剣士は静かな森の中を進む。そこは、まるで獣人の心情を現す様に、無数の鏡が無秩序に並んでいた。少女は声を張り上げて、親友に呼び掛けながら進む。すると、周囲の鏡に獣人の影が映り、静かだった森にその声が響いた。「貴方ガ好キ」「ズット見テタ」……声を追って、森を行く二人。こだまするのは親友の苦悩。少女に憧れるあまり、自分を嫌いになってゆく様が語られる。しかし、憧れるような人間ではないと、少女は小さく呟くのだった。
最奥には、一際大きな鏡と醜い獣人の姿。鏡にはツンツン頭の少年が映り、彼は二人が自らを殺したと嘆く。苦悩する獣人、一方で少女は堂々と鏡を見据えた。彼女は言う、少年がそんなことを言うはずは無いと。その言葉を聞いた獣人も顔を上げ、少女と共に鏡の幻影に立ち向かうのだった。
序ノ参:翡緑の章『継ギ接ギノ想イ』
輝く大都市の一角を、男は進んでいた。気が付いたらこの場所にいた彼は、まだ状況を把握することができない。景色の端々にノイズが走る――ここは仮想空間のようだ。不可解な状況の連続だがそれでも彼は見失った伴侶を探すことに集中する。彼にとって、妻の無事を確かめるより重要なことなどないのだ。
しかし道の先にいたのは妻ではなかった。黒衣の少女と、彼女と同じ顔の虚像達。虚像達は、少女を「不完全」であるとなじり、襲いかかる。男は少女を助けるため、加勢した。
共に戦う二人。なぜ少女は、彼女自身と同じ顔をした虚像に襲われているのか――男がその疑問を口にすると、少女はこの仮想空間が壊れはじめているということを話すのだった。
再び訪れた、輝く大都市。そこはノイズとともに、見覚えのある場所へと変わった。廃墟で『花』と戦う囚人達――男の存在した世界の記録もまた、この仮想空間に保管されていたのだった。
やがて男と少女の目の前に「エラー」と呼ばれる囚人達が現れた。自分たちを支配する組織への反抗を声高に叫ぶエラー達。そんな彼らに、少女は嫌悪の眼差しを向ける。完全なる支配者である彼女にとって、自らの使命を果たさない彼らは、不完全で許せない存在だった。
道の最奥で男は、自分と妻の最期の記録を視る。最愛の妻を守ることができなかった……自らの最期の記憶を取り戻して、絶望のあまり男は膝をつく。そこに突如として、白衣の少女が現れる。警戒する黒衣の少女は、彼女に銃を向けた。
囚人達と『花』の戦いの記録を映し出す、仮想空間。男は妻を救うため――黒衣の少女は暴走する白衣の少女を止めるため、先へと進む。やがて空間がノイズに歪み、二人は見知らぬ空間に出る。そこは血と硝煙の匂いが漂う人間の戦場だった。傷つき、苦しみながらも立ち上がり、前へと進む兵士達。男と少女は、彼らの意志の強さを垣間見た。
戦場の最奥には異様な光景が広がっていた。兵士達の死体の中、軍服の青年が一人、何かに包まれるようにして空中に浮かんでいた。まるで囚われているように――あるいは守られているように。二人は青年を助け出したが、彼はノイズとともに姿を消してしまう。その時、周囲にあった兵士達の死体が一つとなり、巨大な魔物へと姿を変えた。それは二人に襲いかかってくるのであった。
天を衝くような本棚が並ぶ「ライブラリ」と呼ばれる場所。そこに、肩を寄せ合い眠る双子の女性がいた。彼女達の傍らに落ちている本を男が調べると、あたりの景色がショッピングモールへと一変する。それは男が、刷り込まれた偽の記憶の中で――実の息子を失った場所だった。
ショッピングモールの最奥で、男はついに妻を見つける。しかし彼女に意識はない。そこに突如、白衣の少女が現れる。彼女が語ったのは黒衣の少女の奸計。黒衣の少女は男を利用していたのだ。
黒衣の少女は人類の記録をすべて取り込み、「完全」な存在へと至ろうとする。しかし人類の記録は、彼女が憎む「不完全」なものであった。不完全さを受け入れられず、暴走する黒衣の少女――そこに軍服の青年が現れる。彼は男と白衣の少女に、ここは自分に任せて逃げるようにと告げた。
様々な時代を継ぎ接ぎした世界を、男と白衣の少女が進んでいく。いつしか景色は荒野に変わっていた。そこに暴走した黒衣の少女がいる。そして彼女は男の妻を召喚した。しかし妻はかつてと同じように自我を奪われており、男に襲いかかってくるのであった。
彼女を救う方法はないのか。愕然とする男に、白衣の少女が呼びかける。強い意志と祈りの力が、閉ざされた選択肢を開くのだと。彼女の歌に背を押され、男は妻を救い出すことに成功した。
人の意志の力強さを、目の当たりにした黒衣の少女。そして彼女は気が付く。たとえ「不完全」なままでも、白衣の少女より優れた存在でありたい――それが自分の意志であると。その想いを胸に彼女は、白衣の少女に挑むのだった。
序ノ肆:琥珀の章『導きの先へ』
『檻』が「敵」に攻め入られたことで、記憶の世界は崩壊の一途を辿っていた。軍人の青年が生きた世界も少なからず、その影響を受けているようだ。突如、行方をくらました部下の少年兵を探す為青年は多くの屍が残る戦場の中を彷徨う。青年は信じていた。少年兵が必ずどこかで生きていると。一方で、青年は自責の念に苛まれていた。自らの失敗によって多くの命が喪われた為だ。失敗による重圧か、世界が壊れた事による影響か、彼の耳には幻聴が響いていた。周囲の死体が、「みんな死んだよ。お前のせいで、みんな」と彼に呼びかける。青年は、つきまとう幻聴を振り払うようにして、戦場の中を駆けた。その彼の前に立ちはだかったのは、自らと全く同じ姿の幻影。なぜ少年を探すのかという問いに、大切な仲間だからだと応えると、幻影は「俺達には誰も救えないんだ」と言った。
* * *
少年が生きた記憶の世界は、燃え盛る炎に飲み込まれようとしていた。少年は、はぐれた従者を探すため、盗賊は少年に助力をして報酬をいただくため、炎を掻い潜りながら進む。すると、炎の陰から白い異形――ママが現れ、二人を先導する。少年は異形の言葉に従おうとするが、盗賊は不穏な空気に気がついた。優しい言葉をかけながら二人に迫る異形。その時、義肢の女が現れて異形を斬り刻む。無垢な純白だった異形は黒く染まり、悪意をさらけ出して襲いかかってきた。ママは偽物だったのだ。女の協力で異形を撃退する二人。だが、女の敵意はそのまま少年に向けられた。女は少年が、妹を殺した「王国」の王族であることに気がついたのだ。復讐を叶えるために、女が少年を殺そうとする。しかし、盗賊はその剣を跳ね返し、少年と共に逃げるのだった。
盗賊と少年が迷い込んだのは、宮殿の一室。そこは、かつて盗賊が愛した姫の居室だった。部屋の先では、盗賊と姫の幻影が談笑している。話に耳を傾けていると、盗賊と少年は波に飲み込まれ、夜の市場へと流された。盗賊の世界もまた、崩壊しつつあるのだ。市場でも幻影達は語り合っている。さらに何度か波に飲み込まれ、やがて二人は浜辺へと辿り着く。浜辺の先には、姫との駆け落ちを妨害し、彼の命を奪った占い師が待ち構えていた。盗賊と占い師はかつてのように再び命を奪い合う。
戦いの後、景色は再び宮殿の居室へと移り変わる。そこには、先程と変わらぬ占い師の姿があった。だがそこで、盗賊は己の知り得なかった真実に戸惑う。因縁の占い師の正体は、変装をした姫だったのだ。苦悩する盗賊を嘲笑うように、再び波が二人を飲み込んでゆく。
少年は義肢の女の夢を見る。夢の中で、復讐を誓う女のもとに、喪ったはずの妹が現れた。女は妹を抱きしめて憎悪を募らせてゆく――目覚めた少年は、盗賊とともに宮殿を駆け、再び姫の元へと向かう。だが彼女と相見えた時、盗賊は動揺して立ち尽くしてしまう。そんな彼を少年が気遣っていると景色は夢で見た町へと移る。そこには復讐を叶えようとする女がいた。そして、そこに兵器と化した女の妹と占い師も現れる。操られている様子の二人を助ける為、女と少年達は力を合わせる。
戦いのあと、純白の世界で女と少年は向き合った。傍らには女の妹がいる。「もう、私のために苦しまないで」――それは本来の妹の願いだった。少年への憎悪は失せ、妹と抱き合い消える女。盗賊もまた、かつて憎しみあった占い師と和解する。そんな二人の様子を、少年は優しく見送るのだった。
少年は従者を探す為、見知らぬ戦場の中を走る。辿り着いた先には、探し続けていた従者がいた。彼が相対しているのは、軍人の青年。その目は不気味に赤く光り、正気を失っているようだ。青年が銃撃を行うと、従者が少年をかばって倒れてしまう。少年は己の無力を思い知らされるのだった。
絶望に沈む少年を引き上げたのは、石造りの塔で出会った少年兵の声。彼の言葉に気力を奮い立たせ、少年は機械仕掛けの従者の体を開く。これまでの旅で得た信念、志気、慈愛。少年の心によって従者は復活する。信頼し合う二人が真に再会したのだ。少年兵に加勢し、彼らは青年を止めることに成功する。少年兵は、気絶した青年を介抱しようとしていた。
だがその時、白い異形――ママの声が彼らを急かす。崩壊から逃れる為、一行は戦場から脱出する。
二ノ幕:回帰の章『大切ナ記憶』
姉弟は月と地球を繋ぐ衛星の修復を行う為、衛星内のサーバーに侵入した。そこは美術館のように多くの絵画が並ぶ場所。塔に突き刺さった竜の絵が二人の目を引く。これは2003年の東京での出来事を記した絵であると説明が添えられているが、東京に住んでいた姉弟にそんな事件の記憶はない。
絵の謎を解こうと先に進む二人。そして雪のようなものが降る場所に出ると、二人は「赤目の怪物」に襲われる。かつて憎み合った姉弟は、不慣れな剣で互いを守りながら戦った。
そして、新たな絵画を見つける。そこに描かれていたのは――街に現れた竜の死によって生じた「白き病」が人々を「赤目の怪物」に変えてゆく様。これらの絵画に描かれた悪夢のような惨事は、二人が住む世界とは違う世界の出来事。世界は可能性によって、幾筋にも枝分かれしているというのだ。
次に姉弟が訪れた衛星のサーバー内は、古めかしい博物館のような場所になっていた。二人は白い異形に案内され、施設の中を進む。そして、東京に竜が現れた世界のその後の出来事を知る。
人類は「赤目の怪物」と戦うために「十字軍」を組織した。また「白き病」の進行を抑えるために魂と肉体を分かち、保管する技術を開発した。そうやって人々は滅びの運命に抗ったが、功を成すことはなかったのだ。だから人類復活のカギを、遠い未来に向けて残すことにした人間の遺伝情報を保存し、さらに文化、歴史を記憶として遺す『檻』を、月面に造り出すことによって。
それは『檻』が「敵」によって破壊された時、姉弟の大切な記憶――すなわち二人の家族の思い出も失われることを意味していた。そして二人は、改めて『檻』を守り抜く決意を固めるのであった。
少女がアクセスしたサーバーには、少女達アンドロイド部隊「ヨルハ」と、その拠点が記録されていた。彼女はそこで、以前自らも暮らしていたこの拠点が「機械生命体」と呼ばれる敵の手によって既に陥落していたことを知る。仲間のアンドロイド達が皆、ウィルスに汚染されて暴走していたのだ。
記録上の空間で、暴走アンドロイドに襲われる少女。彼女は逃走の末に、通路で見つけた一振りの刀を手に取り、かつて仲間だったそれを迎え撃つ。その瞬間、少女の中に流れ込んだのは――大切な仲間を想いながらも力尽きた、刀の持ち主の『声』。拠点は為す術なく、壊滅していたのだった。
少女にはもう帰る場所がない。孤独には慣れていると自分を騙し、耐え続けたが……それも限界だった。心の拠り所を失った少女の元に、黒い鳥が集まってくる。彼女のデータは、汚染されていた。
地球へと続く道を侵す最後の汚染を取り除く為、アンドロイドの少女は姉弟をあるサーバーの内部へと送り出す。闇にそびえ立つ塔のようなその場所に記録されていたのは、「機械生命体」がアンドロイド部隊を壊滅させ、地球を侵略する歴史。さらに塔の頂上に辿り着いた姉弟は、かつて自分達が「対立」の道を辿ったために、地球から『檻』に敵を招き入れてしまったことを知る。
罪悪感に苛まれる姉弟。それでもアンドロイドの少女と交わした――共に地球の景色を見るという約束を果たさなければと奮い立ち、大切な思い出を代償に地球への「経路」を切り開く。そして姉弟の元にアンドロイドの少女が合流する。しかし少女は、二人と共に行こうとしない。少女は自らを犠牲に、二人が捧げた思い出を修復し――『檻』の皆が進む道を、未だ残る敵から守るのであった。
三ノ幕:輪廻の章『Goodbye』
ポッドが装置にアクセスすると、地球に設置された量子サーバーが稼働していた頃の記憶に繋がる。そこには、白い衣服を纏う少年と少女にまつわる過去が遺されていた。量子サーバーの管理人である二人は、いずれも決まった名前を持たず『彼』と『彼女』と呼ばれているようだ。『彼』と『彼女』の役目は、サーバーに遺された人類の記憶を、ただ観測すること。
二人はサーバー内の電脳空間を進む。『彼』に誘われた『彼女』が装置にアクセスすると、遠い過去の記憶に繋がった。人類が科学を発展させ、文化を築き上げた頃の地球。装置はサーバーに遺された記憶を呼び起こせるようだ。更にアクセスを続けた『彼女』は人類の行く末―――疫病や暴動に苦しみ絶滅へと歩む未来を知る。人類を憂う『彼女』に、『彼』はその復活を信じていると語るのだった。
ポッドが次の装置にアクセスする。そして、量子サーバーが荒廃した後の記憶を観た。
壊れた電脳空間の中、『赤い少女』が朽ちた装置にアクセスしている。人類が絶滅し、廃墟となった都市―――『赤い少女』が機械生命体を従えて侵略を進め、アンドロイドと戦っていた頃の記憶。一時は機械生命体が優勢だったが、結果は痛み分け。『赤い少女』の命も果てようとしている。
『赤い少女』は壊れた機械生命体の記憶を取り込んだ。償いの想いで、彼等の痛みや苦しみをその身に引き受けたのだ。更に進むと、『彼女』が現れた。『赤い少女』は敵である筈の『彼女』に手を伸ばし、救済を懇願する。『赤い少女』が最期に口にしたのは、孤独感だった。だが『彼女』は『赤い少女』を吸収し、その力を用いて都市の姿を変える。その景色は、まるで『檻』そのものだった。
『巣箱』の扉の前にある装置から繋がったのは、量子サーバーが創設された時の記憶。
『彼』は人類の記憶を観測する為、サーバー内に造られた。初めに『彼』が観たのは人類が絶滅に至るまでの凄惨な光景。『彼』はヒトを救おうとしたが、記憶への干渉は不可能だ。だから、記憶そのものを自らの中に取り込んだ。人類の痛みや苦しみを深く知る事が、救済に繋がると考えたのだ。何故か、サーバーには過去だけではなく未来の記憶も遺されていた。命無き人形達の戦いの記憶を経て辿り着いたのは、奇妙な建築物が連なる未来。そしてその先に、『彼』は今まさに生まれようとする自分自身を臨む。歴史は繰り返されていた。繰り返す歴史を幾度も観測するうち、ヒトの感情を学んだ『彼』は孤独に苦しむ。だから「彼」は自らの運命を変えると信じて、『彼女』を生んだ。
量子サーバーの記憶の中を、『彼』と『彼女』が駆ける。人類の滅びの記憶を繰り返し観測し続けるという役目は痛みを伴うものだったが、二人であれば互いを支えることができた。いつしか誰かが、人類を救う選択を行う日が来る。その日を見届ける為、二人は永遠の時を寄り添って過ごす。
長い時を経て、二人の前に白髪の女が現れる。かつて仲間を失い、孤独を知った女。仲間の命を取り戻す為、女は量子サーバーの破壊、すなわち『彼』と『彼女』を倒そうと試みた。そうして二人は敗れたが『彼』は人類の可能性に希望を感じながら消えていく。だが、唯一の誤算は、散り散りになりながらも『彼女』が生き永らえた事だった。今度は『彼女』が、永遠とも思える時間を孤独に過ごすことになる。「『彼』と・・・・・・もう一度逢いたい」少女の声が、記憶の海に浮かんで、消えていった。
果ての無い虚無を『彼女』は進む。悠久とも思える時間を、ただ独り『彼』に思いを馳せながら……
どれだけの時間をそうしていたのか。やがて『彼女』の眼前に、『赤い少女』が現れた。『彼女』は『赤い少女』が人類の敵だと知っていた。だが、今となっては『彼女』の敵ではない。互いに孤独を知るものだったから。『彼女』は救済のため、手を差し伸べる。しかし『赤い少女』が修復不可能であることを知ると、遺された想いを引き継ぐ為、その身に取り込んで……一つになった。
身に広がる憎悪の赤。初めからずっと独りだったなら、喪う哀しみを背負う事も無い。だから『彼女』は世界を、時を凍りつかせた。だが、ヒトの歴史を、繋がりを記憶する場所は、地球だけではなかった。『彼女』は黒い鳥を放ち、運送屋や姉弟達を利用して、月面の『檻』を墜とすのだった。
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